東京工業大学の研究グループは,溶液の塗布法を用いた高性能pチャンネル薄膜トランジスタ(TFT)の開発に成功した(ニュースリリース)。
n型半導体の技術発展においては,2004年のアモルファス酸化物InGaZnO(IGZO)を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の開発が重要な転換点となった。
IGZO-TFTは従来のシリコン系TFTに比べて,コンピュータの処理速度等に関わるキャリア移動度が10倍以上高く(10~15cm2/Vs),しかも均質で大面積な薄膜を低温で容易に作製できるという優位性を持つため,現在は有機ELディスプレーや高精細ディスプレーなどに実用化されている。
一方で,p型半導体に関しても新規材料の模索が進められてきたが,未だ画期的な進展には至っていない。そこで研究では視点を変えて,まったく新しい物質を見出すのではなく,既存の物質同士をうまく組み合わせることで優れた半導体特性を実現することを試みた。
今回,ペロブスカイト型ハロゲン化物の優れた輸送特性に着目し,2次元ペロブスカイトのPEA2SnI4と,3次元ペロブスカイトのFASnI3という2つの物質の両方の長所を発現させる微細構造をデザインした。
両者は「移動度とキャリア制御性」において相反する特性を示し,小さい電界移動度もしくはスイッチオフが出来ないといった問題点を抱えているが,今回開発した方法では両者の利点を生かし,欠点を補い合うことに成功した。結果的に,従来の酸化物TFTに匹敵する移動度25cm2/VsのpチャンネルTFTを実現させた。これは従来のIGZO TFTと同等な値だという。
さらに,IGZO TFTと組み合わせることで非常に優れたCMOSとして機能することを確認した。また,今回開発したp型半導体材料は鉛などの有害物質を含まないため,環境負荷や人体への健康影響が小さいことも特徴だとする。
研究グループは,従来のnチャンネル酸化物TFTと組み合わせた高性能CMOSの実証はウェアラブルやフレキシブルエレクトロニクスの社会実装に繋がるものと期待する一方,実用に向けて,ペロブスカイト型ハロゲン化物特有の大気中でも安定性の問題がまだ残っており,迅速な産学連携が必要だとしている。