東大ら,電波望遠鏡用モスアイ構造をレーザー加工

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と米ミネソタ大学は,東京大学で開発された超短パルスレーザー加工システムによって,世界で初めて電波望遠鏡に実装可能な,大面積モスアイ反射防止構造を有する赤外線吸収フィルターの開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,ミリ波を透過しながら赤外は吸収し,さらに吸収した熱を排熱するのに最適な高熱伝導を持つアルミナがフィルター材料として注目されている。しかし,アルミナのミリ波屈折率は3程度あり,そのままではインフレーション仮説実証に必要な宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を50%程度反射してしまう。

一般的に光学素子表面にコーティングを行なうことで電磁波である光を打ち消す干渉を起こし,反射を消すことができる。しかし,冷却するとコーティング材は頻繁に剥離するため,再現性のある技術が確立できていなかった。

そこで今回研究グループは,コーティング技術に代わりピラミッド状の突起物が並んだ,アルミナの反射を50倍減らすモスアイ反射防止構造の作製に挑んだ。

見たい光の波長よりも小さいピラミッド構造の領域では,その光は真空中(空気中)の屈折率1と材料の屈折率の間の屈折率を作り出せる。これは表面を加工するだけでコーティング層を作ったのと同じ効果を得ることができ,結果的に反射を抑えることができる。しかし,ミリ波帯域で求められる構造はサブミリメートル程度で,既存技術では作製が難しい。

そこで研究グループは,東京大学で開発した,数兆分の1秒という超短パルス幅を持ち瞬間出力が100MWにも達する強力な超短パルスレーザーを光源とするレーザー加工システム使用して,30cmの非常に硬いアルミナ表面に1mm未満の間隔で高さ1mmのピラミッド構造が並ぶモスアイ構造を成形することに成功した。

当初数ヶ月から一年以上かかっていた加工時間は,レーザー光源の平均パワーの増大および短パルス化に加えて,ガルバノミラー及びステージの精密制御を同期させることで高速化し,大面積化も実現。結果として,4日程度の加工時間で,アルミナディスクの両側にそれぞれ320,000個のピラミッドを作り出すことができた。

これにより,透過率が75GHzから105GHzにて98%以上,また反射は1%以下になることを測定により確認。この赤外線吸収フィルターを,米の電波望遠鏡に搭載するミリ波レシーバーに提供した。

これは微細レーザー加工によるモスアイ反射防止構造を有する大型赤外線吸収フィルターの開発に世界で初めて成功した事例。研究グループは,今後さら大型の赤外吸収フィルターを提供する第一歩になるとしている。

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