大阪大学と名古屋大学は,極低温下(1.4ケルビン=-271.75度)での光ピンセットによる微粒子の捕捉を世界で初めて実現した(ニュースリリース)。
微粒子の光ピンセット技術は,水溶液中や細胞中,真空中や超高圧下など,多様な環境で用いられてきたが,非常に低い温度領域に適用した例はなく,さらなる応用展開への障害となっていた。
研究では,レーザーアブレーションを用いて微粒子を作製する技術を,超流動ヘリウムという低温である液体中に導入し,さらに一体成型非球面レンズを用いることで,世界で初めて1.4K(-271.75℃)という非常に低い温度でも微粒子を光ピンセットで捕捉できることを示した。
今回,レーザーアブレーションを用いることにより,これまで難しかった,超流動ヘリウム中への大量のナノ微粒子の直接導入を実現し,その一部を光によって捕捉することに成功した。
特に,金という常温の光ピンセットで標準的に用いられる材料と,酸化亜鉛という透明かつ光ピンセット捕捉力が強いと期待される材料について,極低温での光ピンセットを実証したことは、様々な温度環境において光ピンセット技術を適用できることを示す重要な成果だとする。
さらに,光ピンセットによって捕捉された固体ナノ微粒子の運動状態を観測することで,超流動ヘリウムという粘性が非常に低く量子的な性質を持つ特殊な液体の性質を解明することが可能であることも示した。
研究グループは,この果により,様々な分野で長年蓄積されてきた光ピンセット技術の知見・ノウハウが極低温で適用可能となり,光ピンセット技術が新たなフロンティアに拓かれるとともに,超流動ヘリウムという特殊な液体の基礎的な性質を調べるための新しいツールとしても期待されるとする。
超流動ヘリウムは,粘性が非常に低く量子的な性質を持つ液体として,物性科学や流体力学の重要な研究対象となっている。特に,超流動ヘリウム中には,量子化された渦である「量子渦」と呼ばれる1次元的な位相欠陥が存在する。これまでの研究により,超流動ヘリウム中の量子渦は周囲に存在する微粒子を中心(渦芯)に引きつけることが分かっている。引きつけられた微粒子は量子渦の渦芯上に安定して存在し続ける。
そこで,このような量子渦と微粒子群の複合的構造に,この研究によって実証された光ピンセット技術を用いることで,量子渦を光で捕捉・操作するような研究が可能になり,乱流や渦の性質の普遍的理解が進むことが期待されるとしている。