公大ら,光ピンセットを使いエネルギー移動を制御

大阪公立大学,神奈川大学,東京医療保健大学は,レーザー光の焦点に形成された微粒子(ドロップレット)に,水溶液中の高分子を集める光ピンセット技術を応用し,溶液に混合した二種類の蛍光分子をドロップレット内に抽出・濃縮した(ニュースリリース)。

蛍光を発するエネルギーの高い状態にある分子を励起分子(D)という。この励起エネルギーは別の基底状態の分子(A)へ受け渡すことができ,このエネルギー移動の過程をフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ぶ。

FRETは,植物の光合成反応をはじめ,生体内・細胞内のタンパク質の機能や生化学反応で見られる。また,シグナル伝達を可視化できるバイオイメージングなどにも広く活用されており,現代テクノロジーの最重要キーワードの一つとなっている。

FRETの速度や効率は,分子DとAの種類と濃度に依存しているため,これらが固定されると外部からの作用で速度や効率を変化させることはできない。そのため,ミクロ空間でFRETの速度や効率が制御できれば,FRETの新たな応用展開が拓ける。

研究グループは,集光レーザービームが生む光の圧力と,温度応答性高分子を駆使し,FRETの速度・効率の制御を可能にする方法を開発した。まず,水にポリビニルアルキルエーテル高分子,蛍光性のD分子とA分子を稀薄に溶解させ,分子の種類・濃度を固定した溶液を調整した。

この溶液に,顕微鏡下で波長1064nmのレーザービームを照射すると,光の圧力の効果で焦点にマイクロ高分子ドロップレットが形成され,その中に蛍光分子を捕捉することができる。この光ピンセット技術により,溶液中の蛍光分子D,Aはこのドロップレットに抽出・濃縮される。

ここで重要なポイントは,レーザー光の強度により光の圧力を制御できること。これにより,マイクロドロップレット内に抽出される蛍光分子D,Aの濃度を制御することができた。また,このドロップレット内のFRETを蛍光スペクトル測定で観察したところ,光の圧力を高くするとFRETが加速し,蛍光分子Dの青い蛍光が減少,蛍光分子Aのオレンジ色の蛍光が強くなることを確認した。

これより,FRETの加速に伴いドロップレットのカラーが青色から緑色,黄色,オレンジ色へと連続的に鮮やかに変調するため,FRETの可視化も実現した。以上のことから,蛍光分子の種類と濃度を固定した上で,ミクロ空間におけるFRETを光ピンセットにより制御することに成功した。

研究グループは,新しい高分子系や蛍光分子だけでなく量子ドットへの拡張が,次のチャレンジだとしている。

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