理研ら,哺乳類の体の左右の決定過程を光学で解明

理化学研究所(理研),東北大学,学習院大学らは,哺乳類の発生過程の初期に体の左右の違いを決定するシグナルが,「機械的な力」によって制御されていることを明らかにした(ニュースリリース)。

ヒトやマウスの内臓は,心臓が体の左側にあるなど非対称に配置されている。この左右の非対称性は,胎児(胚)が成長する初期の段階で,胚の腹側にある「ノード」と呼ばれるくぼみにおいて「左側を決めるシグナル」が活性化されることにより決定されるが,そのメカニズムは長らく未解明だった。

今回,研究グループはマウス胚において,光ピンセットや超解像顕微鏡など独自の先進的な光学顕微鏡を用い,物理的解析を行なうことで,この問題の解明に挑んだ。

蛍光タンパク質で不動繊毛を光らせ可視化してから高解像度の光学顕微鏡で撮影することで,不動繊毛の3次元的な形状を取得する技術を開発。さらに,ノード流を生み出す動繊毛の分子モーターを紫外線で破壊する技術を開発し,生体内でノード流を止めることに成功した。

その結果,ノードで生じる左向きの体液の流れ(ノード流)により,ノードの左側の不動繊毛は腹側に曲げられ,右側の不動繊毛は背側に曲げられるという,不動繊毛の左右非対称な変形を明らかにした。

光ピンセットでプラスチックの微小粒子(ビーズ)を捕捉し,上下方向にビーズを振動させて不動繊毛に押し当てると,生体内のノード流を模した力を不動繊毛に与えることができる。

この操作を,先天的にノード流を欠失した変異体マウスの不動繊毛に対して行ない,左側を決めるシグナルであるカルシウムイオンのシグナルや,そのシグナルを受けて左側特異的に発現するNodal遺伝子の活性などを測定した。その結果,不動繊毛が腹側に曲がったときにのみ,左側を決めるシグナルが活性化されることを発見した

これにより,ノードの不動繊毛が「機械的な力」で活性化されることを示しただけでなく,不動繊毛が「曲げられる向きを感知するアンテナ」として機能する全く新しいタイプの受容組織であり,不動繊毛がノード流の力を感知して活性化されることを明らかにした。

さらに,不動繊毛が腹側への曲げのみに応答する仕組みを,独自の画像解析アルゴリズムと超解像顕微鏡(3D STED顕微鏡)によって明らかにした。

研究グループはこの成果について,20年にわたり体の左右対称性が破られる仕組みについて続いていた論争を,生物物理学的視点からそのメカニズムを解明した,教科書を書き換える画期的なものだとしている。

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