名古屋大学の研究グループは,「温めると縮む」新しい材料を発見した(ニュースリリース)。
光学機器や電子デバイスなどの他,燃料電池やパワー半導体などの先端エネルギー分野や,熱の有効利用を目指す熱電変換システムなどの熱マネジメント分野でも,熱膨張の制御が強く求められている。
そのため,「温めると縮む」負熱膨張材料が熱膨張を制御する材料として注目されている。負熱膨張材料としては,β‐ユークリプタイト(LiAlSiO4)やタングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)などの酸化物が知られ,これまでは,特に安価で環境にもやさしいβ‐ユークリプタイトが実用されてきた。
しかし,これらの従来材料は,負熱膨張の度合いが大きくない。そこで,近年は相転移に伴う体積変化を活用するなどして材料開発がなされ,ビスマス‐ニッケル酸化物(Bi0.95La0.05NiO3),スカンジウムフッ化物(ScF3),ルテニウム酸化物(Ca2RuO4),鉛‐バナジウム酸化物(Pb0.76La0.04Bi0.20VO3)などの新材料が見出され,従来材料の数倍から十倍を超える巨大な負熱膨張が実現された。
しかし,これらの巨大負熱膨張材料は,高価な(Ru,Sc),あるいは環境に有害な(Pb)元素を含むことや,合成にコストのかかる高圧力が必要(Bi0.95La0.05NiO3)などの理由から,大々的な実用には至っていない。
研究グループは,安価で環境親和性高い元素で構成され,合成も容易で低コストな新規材料の探索を行ない,ピロリン酸亜鉛(Zn2P2O7)に注目した。Zn2P2O7は132°Cで構造相転移を示し,高温相が低温相に比べて体積が1.8%小さくなる。
この大きな体積変化を活用するため,やはり68°Cで同様の構造相転移を示すピロリン酸マグネシウム(Mg2P2O7)との混晶を合成した。その結果,Znを20%Mgで置換しZn1.6Mg0.4P2O7において,室温を含む‐10~80°Cの温度範囲で線膨張係数にして‐60ppm/°Cを超える大きな負熱膨張を実現した。
この材料は,亜鉛(Zn),マグネシウム(Mg),リン(P)を主成分とする酸化物で,低コストで環境親和性が高い。また,通常の固相反応で容易に合成可能で,高圧や真空封入など,高コストの合成手法も不要。にもかかわらず,負熱膨張の大きさは,代表的な巨大負熱膨張材料であるBi0.95La0.05NiO3と遜色がないとする。
同大では,この研究成果をもとに特許出願しており,技術移転の活動を進めている。2022年早々には試験供給が可能となる見込みだとしている。