東工大ら,巨大負熱膨張のメカニズムを解明

東京工業大学,名古屋大学,神奈川県立産業技術総合研究所は,層状ルテニウム酸化物において巨大負熱膨張の起源となっている結晶構造変化を解明した(ニュースリリース)。

光通信や半導体製造など,精密な位置決めや部材の寸法管理が要求される局面では,わずかな熱膨張が問題になる。そこで,温度が上昇すると収縮する“負の熱膨張”を持つ物質によって,構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられている。

名古屋大学は,還元処理した層状ルテニウム酸化物Ca2RuO4の焼結体が,345K以下の200Kにわたる昇温によって6.7%もの体積収縮を示すことを発見した。この巨大な負熱膨張は空隙の多い材料組織に由来すると考えられたが,そのメカニズムはこれまで不明だった。また,還元処理が負熱膨張に果たす役割も分かっていなかった。

今回の研究では,昇温に伴うCa2RuO4の結晶構造変化を,電子線回折,大型放射光施設SPring-8での放射光X線回折実験,放射光X線全散乱データPDF解析,X線吸収微細構造,そして第一原理計算を用いて詳細に調べた。

その結果,低温では,4価のルテニウムが持つd電子が,横方向に張り出したdxy電子軌道を優先的に占有するために,ルテニウムを囲む酸素8面体が縦に収縮しており,さらにそれらが互いに傾斜して,縦方向(c軸方向)の収縮と横方向(b軸方向)の伸張が生じていることがわかった。

昇温すると,この結晶構造の歪みが徐々に解消するため,c軸方向に伸長し,b軸方向に収縮する異方的な熱膨張が起こる。材料組織を形成する針状の結晶粒は,長手方向がb軸に対応しているため,昇温に伴って太鼓型に変形し,それによって結晶粒間の空隙が減少するために,全体として体積が大きく収縮することが明らかになった。

また,合成直後の材料は格子間位置に過剰な酸素を取り込んでおり,これが低温での選択的な電子軌道の占有と酸素8面体の傾斜を阻害していることも明らかになった。これは,この過剰な酸素を還元処理で取り除いてはじめて負熱膨張が生じるということであり,還元処理が負熱膨張に果たす役割を確かめることができたという。

Ca2RuO4は,広い温度範囲にわたって巨大な負熱膨張を示すが,実用化に向けては,高価なルテニウムを含むという問題を抱えている。研究では,ルテニウムの特定の電子軌道が占有されていることと,酸素8面体の傾斜が生じていることが,巨大負熱膨張の起源であることが明らかになった。

研究グループはこの成果により,ルテニウムの代わりに安価な金属元素を用いた,新たな負熱膨張材料の設計が期待されるとしている。

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