理化学研究所(理研)と東京大学は,室温で単一の「スキルミオン」を電流によって駆動することに成功し,その動的な振る舞いを観察した(ニュースリリース)。
「スキルミオン」は、固体中の電子スピンによって形成される渦状の磁気構造体で,大きさは通常数十~数百nm。電流を流すと,伝導電子はスキルミオンの創発磁場を受け,トポロジカルホール効果を示す。その反作用として,スキルミオンは電流により偏向され,ホール運動をする。
キラル磁性体で生成されたスキルミオンを駆動する臨界電流密度は,約106A/m2t程度で済む。これまでキラル磁性体中の単一のスキルミオンは,-150℃の低温条件下では電流によって駆動できることが報告されていたが,将来的にスキルミオンを電子デバイスに組み込むために必要となる室温で駆動させた例はなかった。
研究グループはまず,キラル磁性体Co9Zn9Mn2のバルク結晶から厚さ約160nmの薄板を切り出し,薄板の両端にタングステンと白金電極を付け,パルス電流を流せるマイクロデバイスを作製した。
このデバイスの板面に垂直下向きに80mTの磁場を加えながらパルス電流を流すことで,直径約100nmの単一スキルミオンの生成に成功した。生成されたスキルミオン中心の磁気モーメントの向きは上向きで,そのトポロジカル数は+1になる。
作製したデバイスに150ナノ秒のパルス電流を流し,生成されたスキルミオンのダイナミクスをローレンツ電子顕微鏡で観察した。デバイスの右から左に5.05×1010A/m2の電流を流すと,トポロジカル数+1のスキルミオンは左下から右上に移動した。
磁場の向きを上向きに反転させると,スキルミオンのトポロジカル数は-1に変わる。この状態でパルス電流の方向を変えずに,4.82×1010A/m2の電流をデバイスに流すと,スキルミオンの並進運動の方向は変化せず,ホール運動の方向が逆になることが明らかになった。
電流が小さいうちは,スキルミオンは固定されたまま動かないが,電流がJC(臨界電流密度)を超えると,スキルミオンはゆっくりとしたクリープ運動をした。さらに電流が大きくなると,スキルミオンは流動するようになり,ホール角(30°弱)を保ちながら,その速度は電流の増大に伴い直線的に増加した。
研究グループは,室温でパルス電流を用いた単一スキルミオンの駆動に初めて成功したこの成果について,磁壁を駆動する電流の1万分の1の低電流でスキルミオンを駆動できることから,次世代の省電力の電子素子の実現や,スピントロニクスの応用研究に寄与するものだとしている。