東大ら,パルスレーザーで量子井戸の磁化を増大

東京大学,分子科学研究所,理化学研究所,高輝度光科学研究センターは,強磁性半導体(In,Fe)Asを含む半導体量子井戸構造に30fsのパルスレーザー光を照射し,量子井戸の磁化を600fsという非常に短い時間で増大させることに初めて成功した(ニュースリリース)。

スピンデバイスを用いた次世代の情報システムでは,高速かつ低消費電力で磁化を制御する方法を確立する必要がある。従来の強磁性体では磁化を増大させるために材料のd軌道またはf軌道の電子濃度を大きく変化させる必要があり,電界効果トランジスタのゲート電圧など電気的な手段で材料の電子濃度を超高速かつ大量に変調することは非常に困難だった。

研究グループは,分子線エピタキシー法を用いた結晶成長により,強磁性半導体(In,Fe)As/非磁性半導体InAsからなる半導体の二層構造を作製し,この構造において電子キャリアが長いコヒーレンス長を持つために単一の量子井戸として振る舞うことを確認した。

この強磁性量子井戸構造において,キュリー温度(15K)より低い温度(9K)で,赤外波長(793nm)の超短パルスレーザー光を試料へ照射し,それと同時にFe原子特有の内殻準位間の遷移(M吸収端,52eV)に共鳴するエネルギーを持つX線自由電子レーザーを用いて量子井戸内のFe磁気モーメントの総和である磁化の時間変化を観測するという,ポンプアンドプローブ法を用いて,赤外超短パルスレーザー光照射による磁化の変化を測定した。

その結果,赤外レーザーパルスが入射されると量子井戸の磁化が600fsという非常に短い時間で瞬時に増大することを発見した。実験結果の解析と理論計算によって,赤外超短パルスレーザーによって生成された電子と正孔は強磁性半導体層のFe磁気モーメントと直接には相互作用しないものの,それらの空間電荷で作られるポテンシャルを非常に速く変化させ量子井戸内に閉じ込められた2次元電子の波動関数が量子井戸内でシフトすることが分かった。

強磁性半導体(In,Fe)AsのFe磁気モーメント間の磁気相互作用はこれらの2次元電子によって仲介されるため,赤外超短パルスレーザー照射後に2次元電子の波動関数が量子井戸内でシフトし(In,Fe)As層との重なりが増えることで,強磁性量子井戸全体の磁化が超高速で増大される,という機構を初めて解明した。

研究グループは,この研究を発展させることで,テラヘルツ周波数帯で超高速で動作できる低消費電力のスピントロニクスや量子デバイスを実現できるとしている。

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