農工大,シート状のレーザーでナノ加工に成功

東京農工大学の研究グループは,硬質セラミックスの一種であるダイヤモンド状炭素薄膜表面に,光の持続時間が7フェムト秒(厚さにして2μm)のレーザー光を照射するだけで,周期が60nmのナノ構造体を表面から直接削り出せる現象の原因が,極薄の電子層に発生した短距離伝搬型表面プラズモン・ポラリトンであることをつきとめた(ニュースリリース)。

レーザーは波長よりも小さなサイズの加工ができない。

そのため,ナノメートルサイズの加工を行なう場合は,フォトリソグラフィや電子ビームリソグラフィとエッチング加工を組み合わせた複雑な工程が行なわれてきた。

一方,フェムト秒レーザー光で生成された電子の集団振動(表面プラズモン・ポラリトン)を利用することにより,固体表面にナノメートルサイズの周期構造体を直接形成する技術はあったが,数10nmの大きさの構造体を作るには,波長を紫外域よりも短くする必要があり,微細化に限界があった。

研究グループは2018年,パルス幅が7fsの近赤外レーザー光(=7×(10-15秒,光が存在する長さは2μm)を,ダイヤモンド状炭素薄膜表面に照射すると,周期が60nmの微細構造体が直接形成されることを発見したが,その物理メカニズムは不明だった。

今回研究グループは,レーザー装置から出力される波長650~1000nm,持続時間7fsのレーザー光をダイヤモンド状炭素薄膜表面に集光照射した。その結果,集光スポット中心付近全体に周期が60nmのナノ構造体が直接形成され,持続時間が100fsのレーザー光を照射したときと比べると,約1/3のサイズの微細構造体が形成された。

顕微ラマン分光装置と走査型透過電子顕微鏡により,この加工部分表面の結合構造変化を観測したところ,7fsのレーザー光を照射した後の結合構造変化は厚さが10nm以下であったことから,レーザー光によって励起された高密度の電子の層の厚みは数nmであることがわかった。

さらに,理論計算により,この非常に薄い電子層には,短距離伝搬型の表面プラズモン・ポラリトンが励起され,それに付随して生じる高強度の光近接場によって固体表面が直接削り取られることを明らかにした。

この現象により,固体表面にフェムト秒レーザー光を照射するだけで数nmから数10nmの溝や穴を掘ることができる。また,加工材料の大きさにも制限がない。

そのため研究グループは,メタマテリアル表面形成,構造色表面加工,MEMS用表面加工,広帯域の無反射表面形成,照明光源の指向性表面形成,X線用光学素子作製,構造化光発生用素子作製などへの応用も期待されるとしている。

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