トプティカフォトニクスは,ヨーロッパ南天天文台(ESO),TOPTICA Projectsらが開発した強力な実験用レーザーが2021年8月,ドイツのAllgaeuer Volkssternwarte Ottobeuren天文台での試験に合格したことを発表した(ニュースリリース)。
天文補償光学は,地球から星を見ると瞬いているように,地上望遠鏡で撮影した画像が地球の大気の揺らぎによってぼやけるのを補正するシステム。歪みを取り除くには,調査対象の近くに明るいガイド星が必要となるが,このような星が常に都合の良い場所にあるとは限らないため,地球から90kmの高度にあるナトリウム原子をレーザーで励起し,研究対象の近くに人工星を作成して参照することで,大気の乱流を補償するという。
ナトリウムの波長に固定したナローバンドで最高光学クオリティのレーザー出力(63W)は,現在の天文学用レーザー技術と比較すればすでに飛躍的な進歩となる。しかし,次の重要なステップは,TOPTICA ProjectsがESOと共同で開発および実装を手がけている「実験的周波数チャーピングシステム」だとし,これも補償光学システムの信号ノイズ比の改善が目的だとしている。
チャーピングとはレーザーを合わせる光の波長の高速変動で,これによりレーザーで励起されるナトリウム原子の数が増え,人工星が明るくなり,乱流が効果的に補償される。同社は,チャーピングプロトタイプをESOの「63W CaNaPyレーザー」に搭載し,ESOとともに,レーザーと斬新なチャーピングシステムの両方を現場に導入している。
補償光学レーザーは既存システムの性能を大幅に改善するとして,スペイン・テネリフェの欧州宇宙機関(ESA)の光地上局にESOとESAの研究開発共同計画の一環として設置される予定。その高いレーザー出力とチャーピングシステムは,地上望遠鏡で撮影した天体画像の鮮明度を大幅に改善すると期待され,この技術によってレーザー衛星通信の開発も可能となるとしている。