北海道大学,東北大学,液晶ディスプレーの研究・開発をするTianma Japanらは,新型コロナウイルスの高性能な抗体検査技術を開発した(ニュースリリース)。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査には,一般にウイルスの遺伝子を検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が用いられている。しかし,検査できる場所に制約があり,時間と手間もかかる欠点があった。一方,迅速なCOVID-19の検査法であるイムノクロママト法による抗体検査は,定性的な結果しか得られず,判定誤差が生じやすい問題がある。
新型コロナウイルスは,表面にヒトの細胞に結合するためのスパイクタンパク質を持つ。研究グループは,抗体検査のため,スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)断片に蛍光分子を標識し,抗SARS-CoV-2抗体と結合可能な試薬(F-RBD)を開発した。
F-RBDが感染者の血中に存在する抗SARS-CoV-2抗体と結合すると,結合していない場合と比較してF-RBDの回転運動が小さくなる。この回転運動の違いは,蛍光偏光度の違いとして測定でき,結合した抗体濃度を反映しているため,蛍光偏光度を測定することで血清中の抗体の定量が可能となる。
研究グループは,血清自体が持つ蛍光の影響を大きく低減し,精度の高い測定を実現するため,従来よりも長波長の蛍光が検出できるようにポータブル蛍光偏光測定装置を改良した。また,マイクロ流体デバイスを組み合わせることで,測定に必要な血清量を0.25μLまで超微量化することに成功した。
この測定装置の重さは4.3kgであり,市販の蛍光偏光測定装置の約1/5。現在,さらに小型・軽量装置の開発にも取り組んでいるという。
検査は,患者から採取した血清をF-RBDと混合したあと,15分後にマイクロ流体デバイスに導入し,ポータブル蛍光偏光測定装置により偏光度を測定するだけ。COVID-19陽性及び陰性患者の血清を用いて検査したところ,陽性患者の血清は陰性患者より大きな偏光度を示し,非常に高い精度で陽性と陰性を判別できることが明らかになった。
この手法により,現場での迅速かつ簡便な抗体検査が期待される。また,ワクチン接種後の抗体価は,ワクチンの効果を評価する上で非常に重要な指標であるため,この手法はCOVID-19に対するワクチンや治療法研究の効率化にも貢献するとしている。
研究グループは,すでにポータブル蛍光偏光測定装置によるウイルス粒子の検出にも成功しているという。将来的には,ウイルスと抗体の同一プラットフォームでの同時測定が期待できるとしている。