理研,高品質のCNTを緻密に配置する技術を開発

理化学研究所(理研)の研究グループは,カーボンナノチューブ(CNT)をはじめとする高品質のナノ材料を緻密に配置する手法を開発した(ニュースリリース)。

CNTは,カイラリティや周囲の環境に依存してバンドギャップの有無やその大きさが多種多様であるため,フォトニクスやエレクトロニクスの分野でも幅広い応用が期待されている。しかし,CNTの適切な配置と表面の清浄性を両立する手段は確立していなかった。そこで研究グループは,昇華性の高いアントラセン分子に着目し,CNTの適切な配置と表面の清浄性を両立する「転写方式」を考案した。

まず,顕微鏡下でアントラセン成長用基板上のアントラセン単結晶を透明スタンプにより拾い上げる。その透明スタンプに貼り付いたアントラセン単結晶の平坦な面をCNT成長用基板へ押し付け,素早く引き離すと,その表面に多数のCNTが拾い上げられる。

CNTの蛍光発光をモニタリングしながら,アントラセン単結晶を転写先基板上の狙った位置へ貼り付け,対象のCNTの位置を精密に制御する。その後,100℃程度に加熱するとアントラセン結晶が昇華され,CNTのみが転写される。

この手法では,昇華によってアントラセンの結晶成長と除去を行ない,全工程で溶媒などの液体が関与しない。そのため,CNTへの不純物による汚染を防止できるだけでなく,1本のCNTの一部が宙に浮いた繊細な構造などを作ることもできる。

一例として,単結晶水晶の基板上で長さ100μm程度に成長した水平配向CNTを,5μm幅の溝が彫られているシリコン基板上に転写して溝上に架橋した。CNTにレーザー光を照射し蛍光を測定したところ,溝上の宙に浮いた部分は,シリコン基板表面上の両端部分の約250倍の発光強度を示した。これは,元の単結晶水晶基板上の発光強度の約5,000倍であり,合成直後に溝上に架橋された清浄なCNTに匹敵するという。

カイラリティ・位置制御の有用性を示すため,フォトニック結晶微小光共振器上に,相性の良いCNTを選んで配置した。この共振器はシリコンでできているが,CNTは宙に浮いていないと明るい発光が得られないため,光物性への影響が少ない二次元絶縁体である六方晶窒化ホウ素をCNTと共振器の間に挿入した。CNTと共振器の適切な組み合わせを選定し,CNTを共振器の上に配置した結果,CNTの発光が共振器と結合したことに由来する鋭いピークを得た。

こうした技術は,原子層材料やその他ナノ構造を自在に組み合わせた高次システムの構築への貢献が期待できる。研究グループは,将来は原子レベルの技術の開拓に役立つ可能性を秘めるとしている。

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