名古屋大学,独ダルムシュタット工科大学,東京大学は共同で,半導体に外部から光(フォトン)と力(フォース)を同時に入射する手法を開発し,結晶のシワ(転位)の運動が光照射で変化する現象をナノスケールで計測することに初めて成功した(ニュースリリース)。
半導体材料の可塑性(加工性)や破壊特性などの構造的な強さに光環境が影響することが明らかになりつつあるが,従来の研究は通常の実験室(環境光のある明るい部屋)で行なわれ,光環境が制御されていなかったことで実験結果の信頼性が失われていた。
先進半導体は小型化が進み,表面積が増大し,光の影響がますます大きくなっていることから,実際のナノスケールの構造物に対応でき,かつ光環境を完全に制御が可能な,ナノスケールの強さの計測手法の確立が求められている。
そこで研究グループは,光制御環境下で材料のナノスケールの強さを評価するめ,圧子と呼ばれる力を発生させる部位自身によって影を生じたりしないように,低角かつ2方向から光を照射できる装置を開発し,結晶内部のシワ(転位)の発生と運動に対して,光環境依存性を正確に評価することが可能となった。
その結果,転位の発生には光があまり影響しないという事実,一方で転位の運動には光が強く影響するという事実を発見した。結晶の形状変化(塑性変形)を担う転位に,このような性質があったことが明らかとなったのは初めて。
転位の発生時は,転位源から転位が張り出す必要があるが,この張り出しを支配する転位の線張力は転位のひずみエネルギーに依存する。このひずみエネルギーに,光励起キャリア(過剰な電子やホール)と転位の相互作用はほぼ影響しない。
一方、転位のすべり運動時には,光励起キャリアが静電的相互作用により転位に引きずられるため,光励起キャリアと転位の相互作用が強く影響する過程となっている。こうした過程の違いが光に対する応答の違いを生じた原因と考えられるという。
今回,ナノスケールでシワの動きを計測する方法が確立できたことで,多種多様な各種半導体の強さを正確に評価することが可能になった。これにより半導体の信頼性や耐久性の向上につながるほか,使用する材料の量を減じた省元素設計が可能になる。近年,「電子」や「光子」の運動を固体材料の強さを考える学術分野に加える必要性が認められつつある中,研究グループは今回の成果について,マイルストーンとなるものだとしている。