富士通研究所は,顔情報で照合対象者を絞りこみ,手のひら静脈で本人を特定する非接触な生体認証を融合させたマルチ生体認証において,マスクを着用していても,マスク着用なしと同等レベルの99%以上の高精度で本人特定が可能な認証技術を新たに開発した(ニュースリリース)。
近年の新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため,マスクの着用がエチケットとして常態化しているが,一般にマスク着用のままで顔認証を行なうと,顔の大部分が隠れてしまうため,顔情報での絞り込みの精度が低下することがあった。
そこで同社は今回,マスクを着用した顔でも高精度な絞り込みができるデータ拡張学習技術を開発した。一般的な顔認証技術では,マスクから露出している目の領域のみを利用する方式を採用しているが,情報量の低下により本人が認識されないという問題があった。
開発した技術は,マスク非着用の顔画像にマスクを付加した画像を生成し学習させることで,マスク着用時でもマスク非着用時と同等レベルの精度で絞り込みが可能となり,同一人物として認識することができる。
具体的には,目や鼻の位置など顔の特徴点から顔の姿勢を推定し,その推定結果に基づいて疑似マスクをリサイズ,変形させて顔画像に重ねることで自然なマスク着用顔画像を生成する。さらに,様々な色や柄,形など,様々なタイプのマスクを付加することで,マスクを外すことなく認証できるようになった。
この技術は,NISTにて実施された顔認証ベンダーテストで,マスク着用顔画像を模した評価データセットにおいて国内ベンダー首位の高精度を達成したという。
また,手のひら静脈認証を行なう際に,利用者がスムーズに認証を行なえるよう手のひら静脈認証センサーのユーザーインターフェースを改善した。静脈認証はセンサーに非接触で行なうが,非接触ゆえにセンサーに対して適切な位置に手をかざすのに時間がかかることがあった。
そこで今回,手のひら静脈センサーの周囲に手のひらの形をしたライトを設けた。手のひらをかざす高さに応じてライトの色と発光パターンを変化させることで,手のひら静脈認証に適切な高さを知らせる。これにより,手のひら静脈認証に慣れていない人でも,手のひらを適切な高さに調整でき,非接触かつスムーズな認証を行なうことができる。
このシステムではまず顔認証によって該当の可能性のある登録者のグループを抽出し,そこから静脈認証によって本人確認を行なう。このマルチ生体認証システムによってデータベースとの照合の高速化が可能となり,例えば登録者が数百万人規模となる全国チェーンでのコンビニでもスムーズな本人確認が可能になるとする。
同社は,さらなるユーザーインターフェース評価などを踏まえ,ローソンと共同で取り組んでいる新川崎テクノロジースクエア内のレジなし店舗で実証中のシステムにこの技術を適用して2021年1月21日より実証実験を進め,2021年度中の実用化を目指すとしている。