奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),大阪大学,中国 大連交通大学は,半導体材料であるシリコン(Si)基板上に,表面の凹凸の深さが0.1nmの原子サイズの,超高精度で乱れのない原子配列構造を持つピラミッド形の物質を作製する方法の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
試料形態を自在に操ることができれば,新たな物性を生み出すことができる。磁性ナノ薄膜をピラミッド形状にすると,その頂上に捕獲される磁化渦という磁気スピンが渦まいて配列する構造が創り出す特異な磁気特性について理論計算で予見されていたが,今まで高品質な立体試料が作製できなかったため,実験的に確かめられていなかった。
これは2次元の平坦な基板表面と異なり,次元性が増した3次元立体表面では,最表面の凹凸をnmオーダーで制御することは難しいため。そこで研究では,経験則で発達してきたシリコンの立体加工作製方法を,結晶学と表面科学的なアプローチを駆使して高度化することで,従来の限界を超えて実現しうる最高の平坦性,すなわち原子配列構造を持つ立体表面を達成した。
原子レベルで制御したピラミッド構造の実現のために,デバイス加工に用いられるリソグラフィ・パターニング処理,ドライエッチング処理に加え,結晶面の化学反応性を考慮したウェット処理,更に超高真空における表面作製加熱処理を連結して行なうことで,試料基板の3次元立体加工,および立体加工した表面凹凸の原子精度制御を実現した。
原子レベルでオーダーしたファセット表面は,原子精度のモノづくりのプラットフォームとなる。研究では,モーター磁石やスピントロニクスデバイスなど次世代材料への展開を見据えて,三次元立体形状の磁気物性に注目した。
研究グループは,この清浄化したSi{111}7×7超構造ファセット表面上に,高品質な2nm~50nmの強磁性体Feナノ薄膜および半導体ナノ薄膜の成長を実現した。そしてピラミッド構造上に成長させたFeナノ薄膜は,特異な強磁性特性を示すことを実験的に見出した。
原子精度の構造評価技術を3次元展開することで,これまで実現していなかった形態を制御したモノづくりへと貢献することができる。具体的には,3次元立体形態の基板立体表面,それを土台としたナノ薄膜の原子レベルでの制御は,立体デバイスなどのモノ作りの基本要素技術になり,ひいては限界が近づいているムーアの法則後のIOTデバイス技術へとつながる。これにより研究グループでは,立体形態が積極的に関与した未知の物性が出現する新規物性開拓の場を提供することができるとしている。