筑波大ら,赤外素子となるバイオマス材料を開発

筑波大学と産業技術総合研究所(産総研)は,藻類オイルや植物由来の精油成分など持続生産可能な資源と,石油の精製過程などで生じる余剰資源のイオウから,赤外光透過性とゴムのような弾力性を併せ持つ高分子材料を開発した(ニュースリリース)。

近年,監視用カメラや防犯用の赤外カメラ,車載用ナイトビジョンなど暗所下における赤外計測,あるいは食品への異物混入をはじめとする工業製品のライン検査装置に赤外光が多く活用されており,今後も重要性が増していくものと予想されている。

しかし,これまで赤外用光学素子材料として使用されてきたゲルマニウムやシリコン,あるいはセレン化亜鉛などの無機物は,原材料や製造にかかるコストが高い,加工が難しい,などの課題があった。

イオウは石油精製過程などで年間7000万トン産生されている余剰資源だが,赤外透過性に優れた特性を持つ。また,生ゴムに加える(加硫する)と分子間に架橋が形成され,高い弾性が得られる。研究では,このような特徴を持つイオウと持続生産可能な原料を組み合わせ,環境負荷の小さい方法で赤外透過性と成形加工性を両立する高分子材料の創出に成功した。

基本原料としたのは藻類オイルとイオウ,テルペン類。テルペン類は架橋点密度を制御する因子として用いた。それらの混合比や反応条件を最適化することによって,赤外透過性,加工性,弾性に優れた材料を合成することができたという。三種類の材料を混合して加熱するだけの極めてシンプルなプロセスで製造でき,触媒も溶媒も必要ないため,原料と製造方法の両面から環境負荷の低い技術だとする。

この材料は成形も容易で,ホットプレスなどの一般的な技術を用いた成形に加え,架橋が完全に進んでいない段階では高い流動性を持つことを生かし,鋳型に流し込んで加熱し,架橋を進行させて固める方法が適用できる。この方法の場合,金属の鋳型より安価なシリコーン鋳型などを利用できるため,より低コストでのプロセスが実現できる。

研究では,シリンドリカルレンズを成形し,材料の柔軟性(弾性)を生かして焦点の位置を変え,可逆的な焦点可変機能を実証した。この機能を活用すれば,複雑で高価な機械式レンズ駆動機構を簡略化でき,カメラシステムの低コスト化や小型軽量化につなげられるという。

研究グループは,新たなバイオマス資源の利用や配合比の最適化によって,従来の赤外光学材料と同等以上の赤外透過性を目指す。さらに,実際の使用を想定した検証などを進め,応用展開を図るため企業連携にも積極的に取り組むとしている。

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