東京大学,東北大学,村田製作所は,結晶に内在する「時計回り,反時計回り」構造の共存状態(強軸性ドメイン)を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
結晶構造に内在する原子配置の回転歪みで特徴づけられる秩序を持つ物質は「強軸性」物質と呼ばれ,左右2つの回転状態を識別・制御することで強磁性体や強誘電体などのようにメモリや光学素子といった応用が期待できる。しかし,強軸性物質においては,強磁性体や強誘電体などに共通して現れるドメインの観測はこれまで報告がなかった。
研究グループは,強軸性秩序が発現する物質としてニッケルとチタンを含む酸化物NiTiO3に着目。この物質は酸素原子位置が遷移金属原子の位置に対して時計回りまたは反時計回りに回転した2つの構造が共存すること,すなわち強軸性ドメインの発現が予想される。そこで同物質の単結晶試料を作製し,電場印加によって旋光性が誘起される「電気旋光効果」を用い,強軸性ドメインの空間分布の可視化を試みた。
結晶対称性の要請から,符号の異なる強軸性ドメイン間では電場で誘起された旋光角が互いに逆向きになることが予想される。このことを利用することにより,試料全体に電場を印加したときに誘起される旋光角の空間分布を調べることで,強軸性ドメインを可視化することが可能となる。
観測の結果,NiTiO3で観測される電場誘起の旋光角は微小であったため,微小な透過率変化の空間分布を高感度に検出することが可能な電場変調イメージング技術を応用することで,強軸性ドメインの観測を実現した。この手法では空間分解能はµmスケールだが,偏光顕微鏡を使った簡単な測定原理に基づいて,結晶中の広い領域におけるドメイン構造を可視化できる。
さらに,上記の結果を補完する測定として,走査型透過電子顕微鏡(STEM)と収束電子回折(CBED)を組み合わせた手法により3次元的な原子配列を直接調べ,より高い空間分解能での強軸性ドメインの観測を試みた。この手法により,pmスケールの回転構造の歪みをnmスケールの空間分解能で強軸性ドメインを観察することに成功した。
この研究によって,これら2つの相補的な測定手法が従来報告されたことのない強軸性秩序とそのドメイン構造を観測するための強力な測定ツールになりうることが実証された。今後,強軸性秩序の秩序変数の制御を可能とする外場を明らかにし,その制御を実証することで,強磁性や強誘電性など従来の強的秩序物性と同様に,新規なメモリや光学素子などといった応用への展開が期待されるとしている。