東京大学大と産業技術総合研究所は,高性能CMOSカメラを用いて,透明物質中で自発分極が揃った強誘電ドメインの分布の様子を可視化できる,新たな変調イメージング技術を開発した(ニュースリリース)。
CMOSセンサーの進化と普及により,現在,その優れた機能をさらに活用する手法の開発が求められている。なかでも「変調イメージング」は,撮像対象に(電界などの)外場を加えたときに像に生じるごく僅かな変化を,超高感度な一括計測により捉えることで,通常の光学像の撮影ではまったく識別し得ない像を浮かび上がらせることができる。
ただ従来法は,撮像する対象の可視光域の吸収が外場によって変化を示すものに限られていた。研究では,電場によって生じる屈折率のごく僅かな変化を,電気複屈折効果(ポッケルス効果)にもとづく透過光の偏光位相差を通して捉えることにより,透明な光学材料にも適用できる技術を開発した。
具体的には,撮像対象の薄膜試料に直線偏光を入射し,試料に電界を印加しながら透過光をCMOSカメラで撮影する。強誘電体は光学異方性を持つため,光学主軸に対して傾いた直線偏光を入射すると,各光学主軸に偏光した成分に対して異なる位相遅れを生じるため,透過光は楕円偏光となる。
試料に電界を印加すると,ポッケルス効果により屈折率が異方性を含めて僅かに変化し,透過光の楕円偏光の状態も僅かに変化する。透明物質のため試料からの透過光強度の総和には変化はないが,偏光板を通すと,透過光の楕円偏光度の変化を光強度の変化として検出することができる。
物質中で強誘電ドメインの自発分極の向きが異なる場合には,電界印加により変化する屈折率も自発分極の向きに応じて異なるため,異なる強誘電ドメインが分布する様子を,撮影する像の明暗の差として捉えることができる。
電界印加による像の変化を繰り返し撮影し,その変化分を差分画像として抽出することで,像のわずかな変化を高感度に検出することができる。研究グループは,この手法を用いて,実際に透明な強誘電体の一種である水素結合型有機強誘電体薄膜内の強誘電ドメインの可視化に成功した。
これまで変調イメージングの撮像対象は,可視光を吸収し外場により吸収強度が変化する物質に限られていたが,今回,透明物質を含む幅広い材料に適用できるようになった。今後は,この手法を各種の光学デバイスや多彩なフェロイック物質など,興味あるデバイス・物質群に適用する試みを進めていくとしている。