京都大学と北陽電機は共同で,フォトニック結晶レーザーを搭載した光測距システム(LiDAR)の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
LiDARには,半導体レーザー(光出力増大のため面積を拡大したブロードエリアタイプ)が用いられる。このレーザーはビーム品質の劣化が激しく(=低輝度),かつ非点収差のために,複雑な外部レンズ系と精密な調整が必要だった。
フォトニック結晶レーザーは,独自のフォトニック結晶構造の活用により,原理的に大面積でも単一モードの動作が可能なため,発振面積を拡大して光出力を増大させても,ビーム品質を劣化させずに、極めて狭い拡がり角のビーム出射(=高輝度動作)が可能となる。
さらに,規定された波長で動作するため,発振波長幅が狭く,かつその温度変化が小さい。そのため複雑なレンズ系が不要で,かつ光学系の調整が不要になり,小型化・低コスト化が可能となる。
また,拡がり角の狭い円形ビームにより空間的分解能も向上する。さらに狭い波長幅と小さな温度依存性から,狭帯域のフィルタで太陽光等の背景光の影響を極力低減できる。
研究グループは今回,高効率かつ安定動作が可能で作製プロセスの簡略化が可能な,新しい2重格子フォトニック結晶構造を考案・作製した。また,フォトニック結晶の上下に出射した光のうち,下方向の光を上方向へ反射し,一層の高効率化と安定性が得られる構造を導入した。
これらの結果,直径500μmの発振面積のデバイスにおいて,これまでで最も狭いビーム拡がり角~0.1°(以前の1/2程度,ビーム品質~1.2)を実現し,これまでの2倍のスロープ効率~0.8W/Aで,ピーク光出力10W以上(パルス動作)を得ることに成功した。
このレーザーはレンズを用いなくとも,30m先において円形かつ~5cmという狭いビームスポットが得られる(ただし1m以下ではビーム径が小さすぎ見えにくい)。これに対し,通常の半導体レーザーは複雑なレンズ系が必要で,かつビームの形状が乱れているため,ビームを走査した時にスポットに重なりが生じて分解能が低下する。
研究では光出力増大のため,フォトニック結晶レーザーの面積を直径500μmから1mmへと拡大を試みた。大面積かつ単一あるいは極少数のモードで動作するために2重格子フォトニック結晶構造を深化させた結果,~70Wという高ピーク出力,高ビーム品質動作を実現。これにより,100m超級の光測距が期待できるという。
今回,機械式ミラーにより走査したが,研究グループは今後,電気的に2次元ビーム走査可能なフォトニック結晶レーザーを開発することで,非機械式のLiDARの開発も可能だとしている。