理化学研究所(理研),東京大学,新潟大学,京都大学の研究グループは,組織透明化技術と組み合わせて利用できる全臓器・全身スケールの3次元組織染色・観察技術「CUBIC-HistoVIsion(CUBIC-HV)」を確立した(ニュースリリース)。
近年,光学顕微鏡を用いて生体組織を3次元的に観察することを可能にするさまざまな組織透明化技術が発表されている。このような組織透明化・3次元観察技術の発展と普及により,現在,細胞や組織構造を染色してラベリングする組織化学的手法のニーズが高まっている。
しかし,3次元組織に染色剤や染色用抗体を浸透させることは,多くの場合容易ではない。これまで,経験則に基づく3次元染色プロトコルが複数提案されていたが,幅広い染色剤や抗体に適用できるものではなかった。
核染色剤のような小分子でも時に浸透が難しいため,単純な分子サイズの問題ではなく,染色系が持つ複雑な物理化学的環境がその要因であると示唆されていた。このため,理想的な3次元染色プロトコルをデザインするには,染色系の環境,特に生体組織の物理化学的物性を詳しく解明する必要があった。
今回,研究グループは,経験則による組織染色プロトコル開発の限界を突破するため,生体組織の物理化学的物性を詳細に調べた結果,生体組織(特に透明化処理を行なった組織)が,主にタンパク質によって構成される「電解質ゲル」の一種であることを再発見した。
この物性から組織を模倣できる人工ゲルを選別し,組織3次元染色の必須条件を探索するスクリーニング系を構築した。さらに収集した必須条件を組み合わせることで,理想的な3次元染色プロトコルをボトムアップにデザインすることに成功した。
開発したCUBIC-HV法(CUBICに基づく3次元組織学・3次元イメージング)は,CUBIC透明化法,高速ライトシート顕微鏡との組み合わせにより,マウスの全脳,マーモセットの半脳,ヒト脳組織ブロック等を均一に染色し,3次元的な全臓器組織観察を可能にした。
この研究成果は,現時点において世界で最も高効率な3次元組織染色手法を提供するもので,臓器・全身スケールでの生体システムの理解や,臨床病理学検査の3次元化による診断確度・客観性の大幅な向上に寄与するとしている。