北海道大学,JAXA宇宙科学研究所,神戸大学,北海道情報大学,千葉工業大学,産業技術総合研究所,立教大学,京都産業大学,滋賀県立大学,米ウィスコンシン大学マディソン校,東京大学の研究グループは,金星探査機「あかつき」によって取得された観測データに基づき,金星大気の高速回転(スーパーローテーション)がどのように維持されているのかを明らかにした(ニュースリリース)。
金星の分厚い大気は,自転の60倍ほどにも達する速さで回転しているが,それがどのような機構かは,わかっていなかった。
研究グループがこの研究で主に用いたのは,紫外線カメラUVIによる画像。研究グループは,観測で得られる画像に写る雲を追跡する,高精度で信頼性の高い手法を新たに開発して,風速を求めた。研究の成功に特に重要だったのは,得られた結果から動的に誤差を推定する手法を開発したこと。
新たな手法と新たな評価法によって,従来は不可能だった風速の微細構造が明らかにできるようになり,スーパーローテーションに対する大気の波や乱流の効果を見積もることもできるようになった。さらに,赤外線カメラLIRで計測した温度も使用し,多角的な研究を展開した。
金星のスーパーローテーションの西向き風は,高さとともに強くなり,雲層の上端付近で最も強くなる。それを水平にみると全球に広がるが,角運動量の観点から考えると赤道付近で最も風が強いと言える。
金星は自転軸がほぼ正立しているため季節はない。そのため太陽光による加熱は赤道付近で最大で極で最も小さくなる。しかし,金星では極域はさほど冷たくなっていない。それは,大気によって南北に熱が運ばれる循環があることを意味する(低緯度で上昇して極域に向かい,高緯度で下降して赤道に向かう)。
ところが,そのような循環があると,角運動量も運ばれるため,何か別に角運動量を「戻す」メカニズムがないと,観測されているような流れは維持できない。特に,低緯度の雲頂付近の「最も強い流れ」(角運動量の最大値)が何によって実現,維持されるかが,理解の鍵になる。
研究グループはその点を中心に,「あかつき」のデータに基づき,さらに過去の研究から様々な補助的な分析を行なうなど,総合的に研究を行なった。それにより,スーパーローテーションという回転にともなう「角運動量」を変化させる要因を定量的に評価することができた。
分析の結果,低緯度の雲頂付近の「最も強い流れ」は,「熱潮汐波」によって作り出されていることがわかった。地球の潮の満ち干に関わる海の潮汐波は,月の引力によって生み出されるが,大気中には昼間熱せられて夜冷却されることによる潮汐波が地球にも金星にも存在し,熱潮汐波と呼ばれている。
金星ではそれが(角運動量を輸送し)加速を引き起こす。これまで,大気中に存在する潮汐以外の波や乱れ(乱流)も加速を担う候補として考えられてきたが,むしろその逆に働いていることも明らかになった。なお,それらは赤道を離れた中緯度において重要な役割を果たしているとしている。