早稲田大学,新潟大学の研究グループは,半導体ナノ加工技術を用いることで表面粗さ0.6nm,1.7nmの平滑基盤および高さ10,25,50,100nm,ピッチ100nmの規格化ナノチタン構造基板の作製に成功した(ニュースリリース)。
この研究は,デンタルインプラント表面のナノサイズの微細構造が周囲骨組織の形成に与える影響を検索するために,ランダムではなく,規格化ナノチタン構造を純チタン表面に付与することを当初の目的とした。
従来の規格化ナノチタン構造はレーザーやスパッタリングによるものが中心だったが,研究グループは半導体ナノ加工技術である紫外線ナノインプリントリソグラフィ,イオンビームスパッタリング,電子ビーム蒸着を用いることで,従来にない精度での規格化ナノチタン構造を任意に付与できる技術を確立した。
今回はこの新規技術を用いて,表面粗さ0.6nm,1.7nmの平滑基盤および高さ10,25,50,100nm,ピッチ100nmの線状ナノ構造チタン基板を作製し,その表面での細胞挙動を検索した。
平滑基盤に対する評価では,表面粗さ0.7nmの基板は表面粗さ1.6nm基板と比較して親水性が高くなり,基板上で培養した細胞の細胞増殖能は低くなった。一般的には,浸水性の高い表面では細胞増殖が促進されると考えられているが,今回は逆の結果となった。
これは,過度に平滑化した表面では親水性は高くなるものの,細胞増殖に必要な細胞接着部位が十分に確保できないことによる可能性が高いと考えられる。細胞の接着にはそれに先立つたんぱく質の接着が重要であることから,この背景には高度に平滑化した表面に対するたんぱく質の接着低下があると考えられるという。
一方,各種線状ナノ構造チタン基板上で細胞を培養したところ,高さ100〜50nmの構造表面では,構造に沿った配向性を示しながら細胞が分裂・増殖したが,25nm以下の高さでは配向性を示さなかった。
以上の結果から,細胞はその増殖能に関して表面粗さ1nm程度の構造サイズによって影響を受けるものの,形態的には25nm以上の構造に対して感受性を持つ可能性が高いことが明らかとなった。このことは,ナノサイズの規格化微細構造制御によって組織形成を制御できる可能性を示唆しているという。
今回の新技術により,純チタン製デンタルインプラント表面上にある細胞挙動の詳細分析が可能となった。また,周辺組織制御可能な体内埋め込み型生体材料開発に向けた基盤技術への応用が期待されるとしている。