新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「研究開発型ベンチャー支援事業/NEDO Entrepreneurs Program(NEP)」事業において支援を行なった起業家候補人材の福岡隆夫氏(現京都大学研究員)が,開発した偽造防止ナノタグ「ステルスナノビーコン」を,実際のサプライチェーンにおいて実証実験を行なう(ニュースリリース)。
金ナノ粒子を適切に集合・集積させると,光に対して単独粒子とは異なった機能を発現する。その現象の一つが表面増強ラマン散乱(SERS)となる。福岡氏は,SERSを発現するナノ構造体の多様な作製法と,SERS検出を用いる超高感度センシング技術を長年研究し,この新しい原理に基づいて偽造防止ナノタグ「ステルスナノビーコン」を開発した。
この「ステルスナノビーコン」は微小なナノ構造体に吸着した極微量の分子から特徴的なSERSシグナルを迅速に検知する仕組みで,光の波長・ナノ構造・化学分子・物理現象を組み合わせて多元的な暗号鍵とするので,ナノタグを電子顕微鏡で構造解析してもSERSシグナルの予測が困難となる。また,必要なナノタグ量はナノグラム程度なので金を原料にしても安価となる利点があり,高いセキュリティー性と低コストを両立する。
福岡氏は,ナノタグインクの創製と,そのナノタグを印刷した試料からの光シグナルの検出に成功し,「ステルスナノビーコン」の安価で複製が困難な機能を用いた偽造防止ビジネスの実用化が可能であることを確立した。
この「ステルスナノビーコン」は液体のインクのように医薬品錠剤などに印刷でき,ナノグラム量のナノタグに特有のレーザーを0.2秒照射するだけで商品管理に必要な情報を得ることができるもので,医薬品などの偽造防止によるブランド価値の維持と人々の安心・安全な生活に役立つ技術として期待されるという。
また福岡氏は,実用化に際して解決すべき課題を把握するため,所属する京都大学などとともにサプライチェーンと連携し,病院などの現場の医薬品保管庫にナノタグを印刷した商品を置き,実際の使用環境で光シグナルの検出が行なえるか確認する実験を2月から約6カ月間実施するという。
なお,2020年1月29日~31日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2020」のNEDOブースにおいて「ステルスナノビーコン」に関する展示を行なう。