産業技術総合研究所(産総研)は,先端素材高速開発技術研究組合(ADMA)と共同で,粒子径の揃った機能性酸化物ナノ粒子を高速に合成する手法を開発した(ニュースリリース)。
市販されているスマートウィンドウは可視光域の調光に主眼が置かれているが,自動車で用いる際には視認性を確保するため,可視光域は調光せず,近赤外光域の熱線だけを調光する特性が望まれる。
また,設置やコスト面から自律的に調光する材料が望まれているため,最近は環境温度によって近赤外光域の光学特性が自律的に変化する二酸化バナジウム(VO2)を用いたサーモクロミック方式のスマートウィンドウの研究が盛んに行なわれている。
今回,研究グループは,通常加熱の水熱合成法に対し,均一加熱・急速加熱・高温加熱という利点があるマイクロ波水熱合成法の原料溶液を調製し,結晶核生成と結晶相形成に至る過程の制御が可能で,良好なサーモクロミック特性を示すVO2ナノ粒子の合成に要する時間を,従来の1/30程度の1時間以内まで短縮した。
さらに,短時間で合成が終了するため,粒子の成長を抑えることができ,従来よりも小粒子径で粒子径が揃ったナノ粒子が合成できた。通常加熱水熱合成では,平均一次粒子径が37.2nmだが,マイクロ波水熱合成では,平均一次粒子径が19.1nmで,粒子径の揃った小粒子径のVO2ナノ粒子が合成された。
ナノ粒子は体積に対する表面積の比が大きいため凝集しやすく濁り度の増加を招く。合成したナノ粒子分散液中の凝集粒子の分散粒子径(二次粒子径)を調べたところ,通常加熱水熱合成では50.3nm(変動係数 0.277)だったのに対し,マイクロ波加熱水熱合成では35.0nm(同 0.273)であり,分散粒子径も小さいことがわかった。
次に,サーモクロミック特性を調べるため,マイクロ波加熱で水熱合成したVO2ナノ粒子の分散液を透明樹脂フィルムの表面に塗布したサーモクロミックフィルムを作製し,10℃と80℃で分光透過率を測定した。
VO2ナノ粒子が絶縁体相である10℃に比べて,金属相である80℃では近赤外光域全域(780~2500nm)にわたって透過率が減少し,VO2を用いたサーモクロミック方式のスマートウィンドウの研究分野でのトップデータとほぼ同等の大きな値を示した。
さらに,今回開発した手法を用いてタングステンを添加したVO2ナノ粒子を合成し,所望の元素の高濃度添加にも効果があることを実証したという。
研究グループは今後,計算(予測・材料設計)・プロセス(試作)・計測(評価)の技術開発を進め,機能性ナノ粒子分散材料の開発を高速化するための基盤の構築を目指すとしている。