矢野経済研究所は,国内外の包装用及び工業・産業用バリアフィルムの動向を調査し,製品セグメント別の動向,参入企業動向,将来展望を明らかにし,QDシート用バリアフィルム向け透明蒸着フィルム市場について公表した(ニュースリリース)。
バリアフィルムは包装用、工業・産業用に大別される。工業用・産業用バリアフィルムは,主にエレクトロニクス関連用途において,ガラスに代表されるリジッドな材料では対応しきれない「フレキシブル」という新たな価値を実現する材料として提案され,そこから新しい市場を切り拓くという取り組みが進められている。
ただ,実際には期待されたほどの市場を形成するには至っておらず,現状で最もボリュームの大きい用途は,QD(量子ドット)ディスプレーのバックライト部材であるQDシート用バリアフィルムで,2018年の同用途向け透明蒸着フィルム市場規模(メーカー出荷数量ベース)は930.5万m2となった。
QDシート用バリアフィルムがある程度まとまったボリュームを確保する一方,電子ペーパーやO-PV(有機薄膜太陽電池)の基板をターゲットとしたハイバリアフィルムの市場は年間数十万m2レベルにとどまっているという。
注目トピックには,QDシート用バリアフィルムの採用動向を取り上げた。QD-TVやモニターでOn-SurfaceタイプのQD(量子ドット)ディスプレーの採用が始まった当初,バックライト部材として搭載されるQDシート用バリアフィルムでは,基材(フィルム)にスパッタリングによりバリア層を形成したフィルムが採用されていた。
その後,セットメーカーから部材コストダウンが求められたことに加え,QD材料の信頼性が向上したことから,当初よりバリア性能を落とした真空蒸着によるバリアフィルムが採用されるようになったという。
蒸着タイプのQDシート用バリアフィルムは,ベースとなるPETフィルムにバリア層となる透明蒸着フィルムをラミネートし,トップにオーバーコートを施した構成が一般的。
2016年に採用が始まった当初は透明蒸着フィルムを2枚重ねて使用していたが,その後,コスト削減に加え,配合するレジンの改良,QD粒子表面へのコーティングといった対策が進み,透明蒸着フィルム1枚のみの使用でもQDが劣化せず安定した性能と寿命が確保できるようになった。
そのため,2017年以降は透明蒸着フィルム1枚使いのタイプへと切り替えられている。需要は着実に伸長しており,2022年のQDシート用バリアフィルム向け透明蒸着フィルム市場規模(メーカー出荷数量ベース)は3,200万m2になると予測する。
今後,包装用に比べ市場規模が小さいレベルにとどまっている,工業・産業用バリアフィルムの需要拡大を図るには,これまでのような「フレキシブルディスプレー」「ガラス代替」にこだわるのではなく,市場やユーザー企業のニーズを整理し,ターゲットとする用途・市場をゼロベースで見直すことが必須としている。