理化学研究所(理研)らの研究グループは,カドミウム原子を用いた「光格子時計」の「魔法波長」を実験的に決定した(ニュースリリース)。
光格子時計は,レーザー光を干渉させてできる干渉縞(光格子)に原子を閉じ込め,その原子が吸収する光の周波数を測定する。
研究グループは,カドミウム原子を使った光格子時計の実現を目指して研究を進めてきた。ストロンチウム原子やイッテルビウム原子の光格子時計では,原子の周辺環境から放射される黒体放射による周波数シフト(黒体放射シフト)を抑えるために,冷凍機を使った低温環境を用意し,その中で実験を行ない18桁の精度を達成している。
これに対して,カドミウム原子は,黒体放射シフトが極めて小さく,そのような複雑な装置を用意しなくても,室温のシンプルで小型な装置で同じレベルの精度が実現できると期待されており,光格子時計を実現する上で必須のパラメータである魔法波長の実験的な決定が待たれていた。
しかし,カドミウム光格子時計を実現するためには,開発の非常に難しい深紫外波長のレーザー光源を多数用意する必要があるため,今までほとんど研究が行なわれてこなかった。
カドミウム原子の魔法波長を決定するためには,光シフトを測定し,それがゼロとなる光格子レーザーの波長を探す。そのためには,まずレーザー冷却によりカドミウム原子の熱運動を小さくし,光格子に捕獲する必要がある。研究グループは,開発した深紫外波長のレーザー冷却光源を使い,カドミウム原子の熱運動を,温度に換算して6μKにまで小さくした。
次に,こうして熱運動を小さくしたカドミウム原子を光格子に捕獲し,光シフトを調べた。光格子レーザーの波長が魔法波長になると,その強度が変わっても,原子が吸収する光の周波数は変わらなくなる。
実験でそのような波長を調べ,魔法波長を419.88±0.14nmと決定した。さらに,理論的にも魔法波長を計算し,420.1±0.7nmという実験結果と矛盾しない結果を得た。
この実験結果に基づいて,カドミウム光格子時計の黒体放射シフトを理論的に計算した結果,ストロンチウム原子やイッテルビウム原子の光格子時計の黒体放射シフトより1桁小さいことが確認された。これは,室温付近で温度が0.1℃揺らいでも,時計の精度が19桁目でしか揺らがないことを意味するという。
研究グループは今回の研究成果は,室温で18桁の精度を持つ小型・可搬型光格子時計の実現につながるとしている。