東北大学,東京大学,国立天文台らは,石英の細線で懸架された7mgの鏡の振動を1秒の測定時間で10-14m程度の分解能で読み取れる測定器を開発した(ニュースリリース)。
現在の科学技術は量子力学と呼ばれるミクロな原子や電子の運動を記述する法則と一般相対性理論と呼ばれるマクロな重力法則の2つを土台にして築かれてきた。これらの法則の発見以来100年近く経過するが,各々の理論はその間に実施された全ての実験結果と整合性のとれた優れた理論であることが知られている。
しかし,これらの理論が適用されてきた実験的なスケールは大きく隔たっており,両理論の統合に向けた検証実験は未だ実現していない。重力と量子の実験スケールを統合するためには,微小重力やゼロ点振動の観測が可能な精密な変位測定系の構築が課題となっている。
重力波検出器は,現在,変位測定装置として世界で最高の空間分解能を誇る。研究グループはその技術を応用することで,懸架鏡(7mgの鏡を直径1μm,長さ1cmの石英の細線で吊るしている)の変位を1秒の測定時間で10-14m程度の高い分解能で測定することに成功した。懸架鏡は重力波検出器と同様に光共振器の一端を担っている。共振器によって懸架鏡は光学トラップされており,さらにフィードバック冷却により基底状態付近まで冷却可能となる。
重力測定の原理は極めて単純で,懸架された鏡の振動は光共振器の反射光量を変化させるため,その変動は光検出器で測定できる。鏡のとなりに重力源を設置し,両者の重力相互作用で生じる懸架鏡の揺れを光で検出することで重力が観測される。
例えば,懸架鏡の4mm程度となりで質量100mgの物体が,(光学トラップされた)懸架鏡の周期で1mmの振幅で振動すれば,重力相互作用によって懸架鏡は10-14m程度揺らされる。この僅かな揺れを研究グループの開発した光共振器の応答から測定することで微小重力が観測可能となる。
測定の雑音を低減するために,光共振器は真空容器内に設置した多段防振装置上に構築している。同じ防振板上に設置したレーザー光の強度・周波数安定化システムにより,レーザー光は安定化されている。
雑音低減の結果,1秒の測定時間で10-14m程度の分解能があることがわかった。この結果から,mgスケールにおける重力測定が可能であることを実証し,さらにmgスケールにおける量子状態制御が将来的に可能であることを示した。
研究グループは,重力波検出器の開発で発展した技術を応用することにより従来の限界を打破し,重力の量子的な性質を明らかにする新たな研究分野の創成に期待できるとしている。