産総研ら,紫外線を反射するトンボのワックスを再現

著者: sugi

産業技術総合研究所(産総研),物質計測標準研究部門,浜松医科大学,名古屋工業大学,東京農業大学らは共同で,トンボ由来の紫外線反射物質を同定した(ニュースリリース)。

地球上のさまざまな動物や植物は体表で紫外線を反射し,視覚によるコミュニケーションや紫外線からの防御をしていると考えられている。中でもシオカラトンボの成熟オスは体表が紫外線を反射するワックスで覆われていることが知られていたが,ワックスの組成やワックス産生に関わる遺伝子は不明であった。

シオカラトンボは成熟過程でオスは体表にワックスを分泌して全身が白っぽい水色へと変化する。シオカラトンボの体表の光の反射率を測定したところ,成熟オスではワックスを分泌すると同時に背側を中心に,特に紫外線(UV)領域の光の反射率が大きくなっていた。

ワックスが剥がれた部分では紫外線の反射率が激減することから,ワックスが紫外線反射に必須と確認された。さらに,体表面を電子顕微鏡で観察したところ,ワックスを分泌した成熟オスでは体表面が鱗片状の微細構造に覆われていた。

この紫外線反射ワックスを同定したところ,3種類の極長鎖メチルケトンと4種類の極長鎖アルデヒドが主成分であった。これらの物質を主成分としたワックスは,これまで他の生物には見られず,特殊な組成であることが分かった。

また,近縁種のトンボでもワックス成分を分析したところ,いずれの種でもワックスの分泌によって紫外線の反射率が大きくなっていたが,その成分と反射率はトンボの種や雌雄,腹部の領域によって異なり,生息環境や行動との関連性も見られた。今回,日差しに強いシオカラトンボの成熟オス背側が最も強い紫外線反射率を示した。

このシオカラトンボ(成熟オス・背側)のみ,極長鎖メチルケトンがワックス主成分であったことから,極長鎖メチルケトン(2-ペンタコサノン)を化学合成して再結晶化させると,トンボの体表面とよく似た微細構造が自己組織的に生じ,強い紫外線反射能や撥水性(接触角がおよそ160°)も再現された。

シオカラトンボの雌雄の成熟過程における遺伝子発現を解析した結果,オスの背側ワックスが産生される時期・領域と非常に強い相関のある遺伝子の同定にも成功した。この遺伝子は,シオカラトンボの半成熟オスの腹部背側で非常に強く発現しているという。

今回の成果は生物の紫外線反射に関する新たな知見であるとともに,化学合成したワックスでも紫外線反射や撥水性が再現できたことから,研究グループでは,将来的には生物由来の新素材として利用できる可能性があるとしている。

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