産業技術総合研究所(産総研),東京大学,早稲田大学,量子科学技術研究開発機構,宇都宮大学らは,極端紫外線フェムト秒レーザーで合成石英への極めて熱影響の少ないレーザー加工を実現した(ニュースリリース)。
次世代のレーザー加工技術の一つとして,波長120nm以下の極端紫外線領域のレーザー光の産業利用に向けた有用性の検証が進められている。しかし,熱影響の少ない加工の実現に向けては,材料の損傷閾値に関して評価が開始されたにすぎない。一方,次世代電子回路基板としてガラスへの高密度な微細穴開け加工はニーズが高いが,これまでのレーザー加工技術では加工品質上の課題があった。
従来用いられている波長領域のレーザーをガラスへの穴開け加工に用いる場合,リム構造(加工端部の盛り上がり構造)の発生などの熱影響を除去することは難しい。今回,従来の近赤外線フェムト秒レーザー(波長800nm,パルス幅約70fs)とSACLAの極端紫外線フェムト秒レーザー(波長13.5nm,パルス幅約70fs)を用いて合成石英の加工を行ない,その損傷閾値や加工モルフォロジーなどの加工特性の評価を行なった。
その結果,これまで報告されている可視光~近赤外線領域のフェムト秒レーザーによる損傷閾値は,今回の近赤外線での結果と大きく変わらなかった。一方,極端紫外線フェムト秒レーザー加工では,今回の近赤外線やこれまでの極端紫外線ナノ秒レーザー加工に比べて,損傷閾値がおよそ20分の1であった。加えて,加工効率に大きく影響する特性値である有効吸収長は58nmと算出され,これまでの極端紫外線ナノ秒レーザーの約2.5倍に向上した。
さらに,極端紫外線フェムト秒レーザーのマルチパルス照射による深掘り加工では加工によるクラックは観測されず,レーザー照射によって熱溶解した際に一般に見られるリム構造も観られなかった。また,レーザーの照射痕(一部)を材料の上面からレーザー顕微鏡で観察したところ,極端紫外線ではクラックの無い加工ができていた。
このように,極端紫外線フェムト秒レーザーを用いることで極めて熱影響の少ないレーザー加工が可能であり,これまで報告されている合成石英の加工の中でも,最高品質のクレーター加工を提供できると結論付けた。
研究グループは今後,SACLAなどで極端紫外線領域に近い波長で損傷閾値などの照射レーザー波長依存性の精査を進めるとともに,今回の成果の加工・評価データを,NEDOプロジェクトの協調領域として構築しているTACMIデータベースへ蓄積する。さらに,合成石英を含むガラス材料などのフェムト秒レーザー加工のメカニズム解明へと発展させ,産業ニーズに応じた最適加工の実現を目指すとしている。