北海道大学と京都大学の研究グループは,光を用いた量子コンピューターを現在の技術レベルで実現させる方法を開発した(ニュースリリース)。
現在,量子コンピューターを実現するために,より大規模な量子もつれ状態を作り出そうとする研究が盛んに行なわれている。光は,他の量子ビット候補と異なり,比較的簡易に量子もつれ状態を生み出すことができるため注目されている。
しかし,光波の連続的な性質を利用する量子コンピューターでは,発生する誤りを訂正することが不可能だった。そこで,2つの光波の状態を使ってデジタル情報を表すことで誤り訂正を行なうGKP量子ビットという手法が注目されている。
これまでのGKP量子ビットを用いた量子コンピューターでは,量子もつれ状態の大規模化の過程で誤りが発生しやすいため,初めに用意しなければならない光波の振幅の精度(分散)は通常のレーザー光のノイズの40分の1以下としなければならかった。これは,370兆回の演算あたり1回以下の誤りしか許されないことを意味し,現在の技術レベルでは達成が非常に難しい。
これまで研究グループは,光波の連続的な性質を活用することで量子ビットに発生する誤りを訂正する能力を最大限引き出す,アナログ量子誤り訂正法を開発してきた。
今回,予測された誤り発生確率を参照することによって,量子もつれ状態の大規模化過程で,誤りを起こした可能性の高い量子ビットを取り除く手法を提案した。この,誤り確率の高い量子ビットを取り除く手法を,トポロジカル量子計算を実行するために用いられる量子もつれ状態の生成に応用し,誤りに強い大規模な量子もつれ状態を構築できることを理論的に確認した。
さらに,アナログ量子誤り訂正法をトポロジカル量子計算に適用した結果,振幅の精度(分散)が通常のノイズの1/10以下であれば量子コンピューターが実現できるということが理論的に明らかになった。
これによって,約1万回の演算あたり1回以下の誤りまで許容できるようになり,これまでの方式と比べて約100億倍誤りに強い方式を開発することに成功した。従来,アナログ量子誤り訂正法のトポロジカル量子計算への適用可否は明らかではなかったが,トポロジカル量子計算の誤り訂正能力を最大限引き出すことが本研究で示され,アナログ量子誤り訂正法の有効性が証明された。
今回開発した方式に求められる許容誤り率は現在の技術レベルでも到達可能なことから,光を用いた量子コンピューターの実現に大きく近づくことができたとしている。またこの成果は,光を用いた量子コンピューターの現実的な構成法を世界で初めて明らかにしたものであり,この分野の発展をさらに加速させるものだとしている。