京都大学の研究グループは,太陽面から大量のプラズマが噴出する現象「フィラメント噴出」の前兆を定量的に捉えることに成功した(ニュースリリース)。
太陽は様々な爆発現象によってX線や極紫外線,大量のプラズマなどを宇宙空間に放出する。高度に技術が発達した現代社会では太陽面爆発の影響により,人工衛星の故障や地磁気の乱れによる大規模停電などが発生することが指摘されている。そのため爆発の発生予測は喫緊の課題として研究が進められている。
研究グループは地上に設置した望遠鏡を用い,プラズマの動きの活発さを定量的に追跡することで,太陽面爆発の1つ「フィラメント噴出」の発生を約1時間前には予測可能であることを発見した。
フィラメントは、Hα線という波⻑656.28nmの光でその運動を⾒ることができる。しかし、フィラメントが観測者に向かって動いた場合には、ドップラー効果によ動く速度に応じて⾒える波⻑が数⼗から数百pm(ピコメートル=0.001nm)ほどずれてしまうため観測が困難だった。
そこで、京都⼤学⾶騨天⽂台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)に搭載されたSolar Dynamics Doppler Imager (SDDI)では,波⻑655.38nmから657.18nmの間0.025nm 刻み,計73波⻑で太陽全⾯を観測することで,フィラメントの視線⽅向速度の計測を⾏なっている。
Hα線近傍の波⻑に対して,世界で最も広範囲な波⻑域を最も細かい間隔で観測しているため,フィラメントの微⼩な動きの⼩さな速度から秒速400kmという猛スピードな噴出速度まで世界最⾼精度で観測することができる。
今回の研究ではこのSMART/SDDIのデータを利⽤し,噴出する前のフィラメントの視線⽅向速度を検討した上で,独⾃の⽅法で「フィラメントの⼩スケールな内部運動の活発さ」を定量化した。
そして,この値の時間変化を追跡した結果,フィラメントが安定している時(=フィラメントが噴出するかなり前)には,この値がほぼ⼀定の低い値を⽰していたのに対し,噴出の約1時間前から値が急激に上昇することが明らかになった。
これにより,フィラメントはその⼩さいスケールの内部運動を定量的に追跡することで、噴出を予測できることが⽰唆された。 これは,フィラメント噴出の物理メカニズム理解にもつながる成果。
現在の太陽面爆発予測は大規模な爆発の際に故障する可能性が高い人工衛星データを元に予測しているため,将来の安定した爆発予測体制には不可欠である「地上望遠鏡による精緻な予測手法」の開発にも貢献できる成果だとしている。