金沢大学の研究グループは,フィンランドAalto大学の研究グループと共同で,従来の約50倍の速度で液中原子分解能観察が可能な高速周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を開発し,水中でカルサイト(方解石,CaCO3)の表面が溶解する様子を原子レベルで観察することに成功した(ニュースリリース)。
カルサイトは地球上に最も豊富に存在する鉱物であり,その溶解過程は地球規模の炭素循環,気候,地形,水性環境などに重大な影響を及ぼすことが知られている。
これらの大規模かつ長期的に生じる現象を正確に予測するためには,カルサイトの溶解がどのように生じているのかを原子レベルで正確に理解することが望まれる。しかし,既存の計測技術では,これらの原子レベルの動的な挙動を液中で直接観察することはできなかったため,溶解機構に関する正確な理解は得られていなかった。
今回,研究グループでは,液中で原子の動きを直接観察することのできる高速周波数変調原子間力顕微鏡(Frequency Modulation Atomic Force Microscopy: FM-AFM)の開発に世界で初めて成功した。さらに,この技術を用いて,カルサイトの表面が水中で溶解する様子を原子レベルで観察することに成功し,単分子ステップに沿って幅数nmの遷移領域が,溶解過程における中間状態として形成されることを世界で初めて発見した。
この発見は,上述した地球規模でのさまざまな現象の予測精度の向上につながるものと期待されるもの。また,ここで開発した高速FM-AFM技術は,カルサイトだけでなくさまざまな鉱物,有機分子,生体分子の結晶成長・溶解,自己組織化,さらには金属腐食や触媒反応などの固液界面現象の原子レベルでの直接観察を可能とするものであり,幅広い学術・産業分野での研究の進展に貢献することが期待されるとしている。