東北大学の當真賢二助教は「ガンマ線の偏光」および「可視光の偏光」の研究成果が評価され,平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞した(ニュースリリース)。
ブラックホールは周囲の物質をすべて吸い込んでしまうというイメージがあるが,実際はブラックホールの少し外側で重力と遠心力が釣り合った領域からは光が逃げ出しており,その光が観測できる。また他の粒子も同様に高エネルギーを獲得し,遠方まで逃げ出すことができる。
物質がブラックホール周辺から逃げ出す過程の中で,ジェットと呼ばれる,速度が光速の99.99%にも達する場合がある細く絞られた噴流が見られる。ブラックホールジェットは,活動的な銀河の中心の巨大ブラックホールに付随していたり,宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストを引き起こしたりする。
しかしジェットがどのようにして駆動され,どのようにして輝くのかについては未だ多くの謎に満ちており,理論と観測が両輪となった研究が進められている。當真賢二助教は,ジェットの理論研究において,ジェットからの光の振動方向の偏り(偏光)の情報を駆使することを世界に先駆けて行なってきた。
[1.ガンマ線の偏光]
ガンマ線バーストのジェットから観測されるガンマ線は,強度と振動数に特徴を持っており,それを再現するような理論モデルがいくつか提唱されていた。ガンマ線は強度と振動数の他に,偏光の情報を含んでいる。研究では,ガンマ線の偏光を多く観測することができれば,理論モデルをさらに絞り込めることを理論的に示した。分かりやすくモデルを区別できるということを理論的に示したことで,いくつもの観測研究者ブループがこの図をもとにガンマ線偏光衛星計画を立てた。
その流れで2010年,日本のソーラーセイル実証機「IKAROS」に搭載された検出器が,世界初のガンマ線偏光観測に成功した。ガンマ線バーストの観測は3例のみだったが,當真賢二助教は限られた観測データから,ガンマ線放射機構とジェット駆動機構には磁場が重要であるという結論を導き,他の仮説より有力であることを示した。
この結論は3例のみのデータから導いたものであり,まだ統計的に確固としたものではないが,ガンマ線バーストジェットに対して偏光理論と観測から切り口を示した点で独創的であり,意義が大きいと評価されている。さらに多くのガンマ線バーストの偏光を観測する必要があり,現在,大型化したガンマ線偏光検出器の計画がいくつか進められている。
[2.可視光の偏光]
ガンマ線バーストについては,近年,ガンマ線だけでなく可視光でも偏光についての研究成果が上がった。ガンマ線バーストからの偏光はこれまで直線偏光のみが観測されていたが,2012年に初めて,円偏光が検出された。放射源はジェットの外部にできる高エネルギーの衝撃波と考えられる。
しかし當真賢二助教らの過去の理論的研究では,検出できるほどの円偏光が作られるとは全く予想されていなかった。當真賢二助教は,この観測チームに加わり,データの理論解釈を担当した。そこで衝撃波において光る電子の運動方向が極めて偏っていればデータを説明しうることを提唱した。ただし,なぜ電子の運動方向が偏るのかはまだ理論的に説明できておらず,さらに研究を進めていく必要がある。