分子科学研究所(分子研)は光渦と呼ばれる奇妙な光が,自然界に広く存在する可能性を世界で初めて理論的に示した(ニュースリリース)。
光は電磁波とも呼ばれる通り,波として空間を伝搬する。波の山の部分をつなぎ合わせたものは波面と呼ばれる。普通の光の波面は平面や球面になっている。これに対して,波面が螺旋状の奇妙な光が存在するということが今から約25年前に明らかにされた。このような光は光渦と呼ばれている。
光渦は軌道角運動量を運ぶと考えられており,物体に当たるとそれを回す力(トルク)を及ぼすと言われている。また,原子や分子などに当たると,普通の光では起きない反応が起きると言われている。光渦は,実験室で特殊な光学素子を用いてレーザー光から人工的に合成することができ,それを使って様々な研究が進められている。その一方で,このような奇妙な光が自然現象で生みだされることはないというのがこれまでの常識だった。
研究グループは円軌道を描いて運動する電子が放射する光について理論的に解析した結果,それが,螺旋状の波面を持つ光渦であることを世界で初めて見出した。円軌道を描く電子からの放射過程は,磁場の中を運動する電子によるサイクロトロン放射を始め,自然界で重要となる様々な放射現象の基礎となるもの。このため,20世紀の初頭以降,数多くの研究がなされ,電磁気学の教科書では必ず取り上げられている。
今回の成果は,このよく知られた放射現象が光渦という奇妙な光を生み出すという,100年以上誰も気がつかなかった秘密を明らかにした。円軌道を描く電子は,天体のまわりの磁気圏など自然界の様々な場所に存在し,光渦を放射しているはずであり,今回の成果は光渦が自然界に普遍的に存在するものであることを示すもの。
今回明らかになった現象を利用することで,全く新しい光渦発生装置が開発できる可能性がある。これまでの光渦研究は可視光を中心とする比較的狭い波長範囲で進められてきた。一方で,円軌道を描く電子は,そのエネルギー等に応じて,電波からガンマ線まであらゆる波長域の光(電磁波)を出すことができる。
即ち,あらゆるエネルギー(波長)領域の電磁波で光渦を発生させることができる可能性が明らかにされた。これまで情報通信,ナノテクノロジー,イメージングといった分野で進められてきた光渦の利用が,光のあらゆる波長域で展開できるようになり,物質科学などより幅広い領域で新しい研究ツールをもたらす可能性があるとしている。