東大,レーザーの偏光制御でスピンを自由に操作

東京大学の研究グループは,レーザー光を用いて特定の方向にスピンが揃った電子を物質中から取り出し,その向きを自在に操作できることを示した(ニュースリリース)。

従来のエレクトロニクス分野では,電子の電荷としての性質のみを利用してきた。一方,電荷と併せてスピンも制御することができれば,これまでよりも高速・低消費電力でのデバイス応用ができるのではないかという可能性が注目されている。

実験は,東京大学で開発された世界最高性能の三次元スピン分解光電子分光装置を用いて行なわれた。試料には,ビスマス(Bi)単結晶試料を用いた。そして,レーザー光をBi 試料に照射した際に放出される電子のスピンが,レーザー光の偏光に対してどのように応答するかを,スピン分解光電子分光法を用いて詳細に調べた。

まず,レーザー光の偏光を,Bi単結晶の鏡映対称面に対して横方向あるいは縦方向にして入射すると,放出される電子のスピンの向きは,この両者で完全に反転することを見出 した。この結果は,物理的には,Bi結晶中の電子軌道が鏡映対称面に対して対称な成分と非対称な成分に分けられ,それぞれが反対方向を向いたスピンと結合していることを意味している。従来は,電子の運動方向に対してスピンの向きが決まっているというのが標準的なモデルだったが,実際には,スピンの向きは電子の軌道成分で決まっているといえる。

さらにレーザー光の直線偏光を回転させると,放出される電子のスピンはさまざまな方向を向き,その向きは直線偏光の回転角度と一対一で対応することがわかった。これは,レーザー光の偏光回転によりスピンの向きを操作できることを示している。

物理的には次のように説明される。直線偏光を回転させることで,幾何学的にはレーザー光は横方向と縦方向の両方の偏光成分を持つことになり,お互いに反対向きのスピンと結合している対称軌道の電子と非対称軌道の電子を同時に励起することができる。電子は波としての性質も併せ持つので,この同時励起された二つの電子状態は,その放出過程で量子力学的に干渉する。その結果,電子のスピンは,最初とは異なる方向を向くことができる。

これまでは,放出された電子のスピン方向は結晶中のスピン状態に依存して決まっていると考えられていたが,光によって操作できることが実証された。

今回確率した概念は,光照射を用いたスピン偏極電子源,スピントロニクスや量子コンピューターなどへの幅広い応用が可能。特に,スピン偏極電子源の設計・開発において,この研究成果は直接的に非常に有力なものになるという。

スピン偏極電子源はGaAsを利用したものが幅広く利用されているが,その弱点はスピンの向きを自在に操作できないことだった。研究で示した概念はこの弱点を克服しており,今後の幅広い応用が期待されるとしている。

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