理化学研究所(理研)と京都大学,大阪大学の研究グループ「HAL QCD Collaboration」は,スーパーコンピューターを用いた大規模数値シミュレーションにより,「クォーク」4個から成る新粒子と考えられていた「Zc(3900)」が,クォークの組み替えにより引き起こされる現象,すなわち「しきい値効果」であり,新粒子とは呼べないことを明らかにした(ニュースリリース)。
クォークは,物質の基本構成要素となる素粒子。これまで,クォークが2個でできた中間子や,3個でできたバリオンが実験で観測されている。また,近年の加速器実験では,クォーク4個でできたテトラクォークや5個でできたペンタクォークといった新しいクォーク多体系の候補が発見されている。
中でもZc(3900)は,クォーク4個からなる新粒子として,国内外の実験施設で相次いで報告されているテトラクォークの代表格。このテトラクォークは,最終的に2個の中間子(中間子ペア)に崩壊して観測される。
今回,研究グループは,このZc(3900)の正体を明らかにするために,クォークの基礎理論である「量子色力学」に基づいて,4個のクォークがどのように構成されるかについて,大規模数値シミュレーションを行なった。さらに,シミュレーションで得られた中間子ペアの間の相互作用を用いて,「散乱理論」による計算を実行した。
その結果,Zc(3900)は新粒子ではなく,崩壊先の中間子ペアが互いに入れ替わること(遷移)によるしきい値効果であることが明らかになった。
この研究により,量子色力学に基づいた数値シミュレーションを行なうことで,3個より多いクォークからなる新奇なクォーク多体系の性質を解明する理論的道筋がついた。これにより,素粒子物理学・原子核物理学の理論研究が大きく進展するとしている。