理化学研究所(理研)と東京工業大学は,産業的に広く用いられている通常のシリコンを用いた半導体ナノデバイスにおいて,量子計算に必要な高い精度を持つ「量子ビット」を実現した(ニュースリリース)。
次世代のコンピューターとして期待されている量子コンピューターは,さまざまな計算を従来のコンピューターに比べて超高速に行なうことができる。
その基礎となるのが情報の最小単位であり,従来のコンピュータで用いられているビットのように0と1だけでなく,量子ビットはその中間の“重ね合わせ状態”をとることができる。
しかし,量子ビットの重ね合わせ状態は,母材中の核スピンといった外部からの“雑音”に非常に弱いという問題がある。これまで,量子コンピューターを構成するのに十分な性能を持った量子ビットは,超電導回路や同位体制御されたシリコンなど限られた“雑音の少ない材料”でしか実現できなかった。
今回,研究グループは,通常(天然)のシリコン上に作製した半導体量子ドット中に閉じ込めた電子スピンを用いて,十分に高性能な量子ビットを実現した。
高速な量子ビット操作のために最適化された試料を用いることで,単一の量子ビット操作を従来の約100倍に高速化し,雑音の影響を受ける前に量子ビットの操作を終えることが可能になった。
また,量子ビット操作の「忠実度」は99.6%に達した。この値は,通常のシリコン中の電子を用いた量子ビット素子の中では最高値だという。
今後,量子コンピューターを実現するには,量子ビットの数を大幅に増やす必要がある。研究で実現した技術は,既存の半導体集積化技術を用いた量子ビット素子実装を可能とするため,大規模量子計算機の実現に向けた重要なステップだとしている。
関連記事「大阪市大,分子構造を解明する超高速量子アルゴリズムを開発」「理研ら,マイクロ波単一光子を高効率に検出」「東大,光子の自在な同期に成功」