月刊OPTRONICS 特集序文公開

量子もつれ光の最前線 光量子センシングの進展と「もつれ合い測定」の深化

著者:京都大学 竹内繁樹

1.量子もつれと光量子科学技術

2025年は,ハイゼンベルクによる量子力学の定式化から100年目にあたることから,ユネスコにより「国際量子科学技術年」と定められた。日本国内でも,大阪・関西万博における展示「エンタングル・モーメント」をはじめとして,様々な催しや講演会が企画された。「量子もつれ(Quantum Entanglement)」という言葉も少し一般に浸透してきているように感じる。

量子もつれの概念は,1935年のアインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンによる,いわゆるEPRパラドックス論文によりスポットライトがあてられた。そこでは,従来の物理学が前提としてきた「局所実在論」と,「量子もつれ」が両立しないことが明らかにされた。このように2025年は,量子もつれ90周年の年でもあった。その後,局所実在論が成立する場合にみたされるべき「ベルの不等式」が破られることを実証した研究に対して,2022年にノーベル物理学賞が授与されたことは,記憶に新しい。

これらの実験では,量子もつれ状態にある光子が用いられた。光子は,空気中や真空中,また光ファイバなどを通じて,その量子状態を保ったまま長距離伝送可能であるという,電子や原子にはない特長を有する。さらに,室温で状態生成や制御が可能であり,周波数や偏光など様々な自由度を有することから,量子コンピューティング,量子通信,量子センシングのそれぞれにおいて不可欠な媒体である。特に光子の量子もつれ状態は,量子コンピューティングでの量子誤り訂正,長距離量子暗号通信,さらに従来の光センシングの限界を超え新たな機能を実現する光(ひかり)量子センシングなどで重要なリソースとなっている。

本稿では,量子もつれ光を用いた量子科学技術の研究フロンティアとして,光量子センシングと,多光子量子もつれ状態に関した最近の研究を紹介する。前者はアプリケーションや社会実装に関するもの,後者は量子情報科学や量子光学の学理の深化に関するものであり,これらを通じてポスト量子力学100年について展望したい。

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