京都大学,豊田工業大学らの研究グループは,原子間力顕微鏡(AFM)を基にした新しい分析手法,走査型熱振動顕微鏡法(Scanning Thermal Noise Microscopy:STNM)を開発し,同手法により厚い高分子膜内部に隠れた,表面下の金ナノ粒子の非破壊検出に成功した(ニュースリリース)。
近年,集積回路におけるナノ欠陥分析や細胞内診断など,材料・デバイス解析やバイオ・医療分野においては,ナノ空間分解能をもつ非破壊・非侵襲の内部診断法の開発が強く求められている。
AFMは,原子レベルで尖った探針をもつマイクロスケールの板ばね(カンチレバー)を用いて,探針と試料表面との間にはたらく原子・分子間力を検出し,試料表面の微細形状やナノ物性を計測する手法として広く利用されている。
このカンチレバーは,ばね振動系(調和振動系)として,特定の周波数(共振周波数)の外力によって共鳴的に振動し,その周波数応答は共振スペクトルを示す。実は,外部からの人為的な力が全くなくても,周囲の熱揺らぎによって,カンチレバーは原理的に常に振動している(熱雑音振動=熱振動)。
探針が試料に接触した状態では,カンチレバーの共振周波数は,接触部の試料表面の固さ(=弾性率)に応じて変化するが,研究グループは,カンチレバーの熱振動の振幅の周波数依存性,つまり熱振動スペクトルからも弾性率を求めることができることを見いだし,探針直下の領域の弾性率を計測することができるSTNMを新たに開発した。
研究ではポリイミド基板上に金ナノ粒子(直径40nm)を散布し,これを膜厚300nmの高分子(フォトポリマー)の膜で覆った。接触モードAFMの探針走査中に,走査領域内の各点で,光学的にカンチレバーの熱振動スペクトルを計測し,熱振動振幅の3次元データを得た。
この3次元データから,任意のある特定周波数における熱振動振幅像を再構成することができた。熱振動スペクトルの分析から共振周波数が高い,つまりこの領域の弾性率が高いことが分かった。また,モデル計算により,この弾性率の変化が,金ナノ粒子の有無に対応することが分かり,厚い高分子膜に埋もれた金ナノ粒子の検出に成功した。
この成果は,非破壊,ナノスケール分解能での弾性率計測および表面下構造イメージング確立に向けての大きな前進であり,今後,様々な産業,バイオ,医療分野における非破壊ナノ内部診断法実現に直接つながるものとだとしている。