大阪大学レーザー科学研究所でパワーレーザー研究を先導する兒玉了祐先生に,その定義や技術の進展,国家戦略から若手へのメッセージまで幅広く語っていただいた。現在、パワーレーザーは核融合や宇宙,材料開発など,社会課題の解決に直結する重要な技術となっている。
―パワーレーザーの定義はありますか?
実は,明確に統一された定義は存在しません。レーザーを「使う立場」と「作る立場」とでは捉え方が異なるんです。使う側からは,例えば「1万気圧を発生させるようなパルスレーザー以上」というように,ある種の閾値が意識されています。つまり,物質を壊したり変化させたり,極めて高いエネルギーや強度を付与できるレーザーをパワーレーザーと呼ぶのが一つの見方です。
一方,開発側から見ると,必ずしも破壊的である必要はありません。観測や計測の精度を飛躍的に高めるためには,強いレーザーが不可欠です。これまでの出力では見えなかったものが,パワーを上げることで初めて観測可能になる、そうした次元を切り拓くレーザーもパワーレーザーと考えて良いのではないでしょうか。つまり,破壊か非破壊かという二分法ではなく,「従来できなかったことを可能にするレーザー」というのがキーワードです。
戦略的な国家プロジェクトが重要
―パワーレーザー開発を巡っては、どこに注目されていらっしゃいますか
パワーレーザーには大きく「パルス」と「CW(連続波)」があります。私は主にパルスレーザーの分野で研究してきています。世界的に見て特に注目すべきはドイツの動きです。ドイツは「核融合」というフラッグ(旗印)を掲げ,従来のレーザー加工技術で築いた強みをさらに発展させる国家プロジェクトを展開しています。これは単なる一点突破ではなく,材料開発からシステム全体までを包括的に押し上げる構想で,非常に戦略的です。
日本は必ずしも核融合を国家プロジェクトの中心に据えているわけではありませんが,レーザー核融合研究の拠点化は進みつつあります。我々の戦略は,ドイツのように特定分野に資源を集中するのではなく,宇宙など応用の幅を広げるアプローチです。パワーレーザーはまだ宇宙分野で多くの可能性を秘めており,日本ならではの戦略で国際的なプレゼンスを築けると考えています。
日本の強みは材料開発分野
―繰り返しパワーレーザーと材料開発の動向についてお聞かせください
日本は材料開発において世界的な優位性を持っています。これまでの研究は,平均出力を高めることに重点が置かれてきましたが,応用分野の多様化に伴い,それぞれの分野に最適化されたレーザーが求められる段階に入っています。
例えば,核融合用と宇宙デブリ除去用では,同じ平均出力でも求められる特性や材料が全く異なります。核融合ではビームの形状をできるだけきれいに保ちたいのに対し,宇宙デブリではビームを強く絞りたい。こうした要求の違いに応じて,スペクトル幅やコントラストなどレーザーの細部仕様も重要になってきています。
さらに注目すべきは超高圧レーザー技術です。従来のレーザー加工では10万気圧程度が限界でしたが,100万〜1000万気圧クラスの圧力を繰り返しレーザーで産業的に利用できる技術が登場しつつあります。これにより,硬くて壊れにくい新しい金属合金など,従来不可能だった材料が誕生し始めています。これは新市場創出にも直結します。
