面発光レーザーは,プレーナーだから大量生産もできるし,短共振器のため単一モードにもできます。波長の再現性は精度の問題だから,きちんと厚みさえ制御ができれば同じ波長帯で発振が可能になると楽観視していました。構造としては,「ハンバーガーみたいな形状にな っていて,活性層があって,両側にミラーで挟んで上下で共振して垂直に光が出る」と,中高生への講義では話しています。
これを1978 年3月に応用物理学会で発表しました。この時はまだ発振はせず,構造を作ってLED状態で光らせたものでした。つまり,製作途中のものでした。実際にレーザー発振したのは1979年で,両側にミラーをつけて,インジウムリン系ですけど,初めて発振しました。これを作ったのは博士課程の雙田晴久君です。以降,面発光レーザーの研究は発展していきまして,論文も随分と出るようになっていきました。1988年には,当時助手であ った小山二三夫君(のちに教授)によって連続動作発振も達成しました。
─海外でも面発光レーザーは研究分野として注目されたのでしょうか
その頃,私はアメリカやドイツの大学などで講義をし,面発光レーザー研究の面白さをアピールしていました。講義を聴いた人たちは面白いと言ってくれ,それが二次効果となってどんどん広がっていきました。
1989年にベルリンの壁が崩壊し,一方でアメリカも軍事予算がDARPAを通じて,大学へ流れるようになり,どんどんと研究費が増えていったわけです。その研究対象の一つに面発光レーザーがありました。ですから, 1990年代というのはものすごく研究人口が増えました。
─面発光レーザーの産業化も進みました。
面発光レーザーが産業的にも技術的にも進歩したのは2000年から2001年にかけてになります。面発光レーザ ーを内蔵したPC用マウスが2001年に登場しました。アメリカのヒューレットパッカード社が初めて開発したのです。レーザープリンターにも採用され,富士ゼロックスやリコーが世界で初めて開発しました。
2017年にはiPhone-Xに3次元顔認証(Face Recognition)システムが搭載されましたが,そのセンシング用光源に面発光レーザーが搭載されています。最近発売されたiPhone-15にもFace Recognitionのチップが搭載されています。面発光レーザーを光源とした原子時計の搭載も期待されていますし,ディスプレイ用光源としても面発光レーザーの開発が進んでいます。これらはシングルモードの応用です。
一方,マルチモードの面発光レーザーでは近距離LANやイーサネットに応用されています。また,アクティブ光ケーブル(AOC)や光インターコネクトなど,データセンターやスーパーコンピューターにも使われるようになってきました。最近ではLiDARにも採用が進み,シングルモードとマルチモードともに応用が広がっています。