芽から幹への成長が期待される面発光レーザーの産業化

◆伊賀健一(イガ ケンイチ)

東京工業大学 栄誉教授/元学長

広島県呉市出身。

1959年広島大学附属高校卒。1963年東京工業大学理工学部卒。1968年同大学院博士課程修了(工学博士)。

東京工業大学教授,同図書館長,同精密工学研究所(現未来産業技術創成研究所)所長,ベル研究所客員研究員(1979-1980年)。

日本学術振興会理事(2001-2007年),工学院大学客員教授(2001-2007年),東京工業大学学長(2007-2012年),一橋大学監事(2014年-2016年)等を歴任。

2022年東京工業大学栄誉教授。

今回のインタビューには,面発光レーザーの生みの親である東京工業大学・栄誉教授/元学長の伊賀健一氏にご登場いただいた。

面発光レーザーはLAN,PC用マウス,プリンター, OCTなどに応用され,市場が拡大基調にある。近年では,スマートフォンの顔認証システム用光源として採用されるなど関心を集めた。伊賀氏が発明した面発光レーザーの研究の原点から将来については,著書『面発光レーザーが輝く:VCSEL Odyssey』(オプトロニクス社刊行,第3版,2023)でより詳細に述べられているが,日本発の光技術の一つである,面発光レーザーのさらなる発展を期待し,今回,本誌において伊賀氏に面発光レーザーの発明経緯から将来について語っていただいた。

─改めまして先生の光・レーザーとの出会いについてお聞かせいただけますか?

東工大の4年生になり,卒業研究で末松安晴先生の研究室に入ったのが1962 年4月です。末松先生が光通信の研究を始めるということで,これは面白そうだと思い卒業研究に応募しました。同級生の池上徹彦君が半導体レ ーザーの研究を,私はルビーレーザーを作るところから研究を始めました。その2年前の1960年にヒューズ研究所でセオドア・メイマン博士がルビーレーザーを世界で初めて発振させたとニューヨークタイムズの7月8日号の投稿記事で発表されました。この出来事は末松研究室に入ってから知ることになるわけですが。

研究を始めるにあたっては,ルビーの結晶が必要でした。結晶は後に学長になった田中郁三先生が持っていらしたので,それをいただきました。それからは発振に必要な反射鏡を光学薄膜の会社に依頼し,螺旋形のフラッシュランプ,コンデンサーなどの電源部品を購入して励起用の装置を準備しました。また,筐体なども設計して,大学の機械工場で作ってもらいました。上手いこと発振しましたよ。光がパッと壁に届いたのを見て,レーザーの魅力を実感したわけです。

ただ,この時に発振したビームは決して綺麗なものでなく,光の出力波形もランダムでしたので,研究ではさらに単一モードの発振を目指しました。ルビーのロッドの真ん中の部分を小さな反射鏡にすることで,今で言う高次モードを抑制して最低次モードだけが残るようにしてやると,丸くて綺麗な単一モードの発振が可能になるという予測でした。これを実現することができたというのが,卒業研究の結論です。この結果はIEEEのプロシ ーディングス1964 年12月号にショートペーパーとして掲載されました。そういうわけで光の面白さが分かり,さらにレーザーモードの勉強をしていまして,修士論文につなげていきました。

私が博士課程に進んだ頃,ルビーレーザーは日本電気㈱によってすでに実用化されていまして,網膜剥離手術への応用や距離の測定,今で言うToF(Time of Flight)向けで実用化がされつつありました。そこで博士課程の研究テーマを光伝送にしました。当時は光ファイバーもなく,ガラス棒のようなものや内視鏡のファイバー束はありました。光伝送に関する研究はベル研究所あたりでも始まっていて論文が発表され始めました。屈折率が分布しているところへ光を通したらどうなるのかという理論の勉強をしながら研究を進めていきました。実際に気体で光を通すためのガスレンズというのを作り,実験を繰り返しながら博士論文を書き上げました。光伝送という研究の道に入っていったのは,ここからですね。

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