─海外機関との連携事業というのはあるのでしょうか?
沓名:海外から研究者の方をお招きして講演会を行なうことはしています。過去には,MITの増渕興一先生や,ロシアのレベデフ物理研究所のイリーナ・ザベストフスカヤ先生とアファナーシェフ先生が講演されました。レベデフ物理研究所は,物理学研究の拠点として世界的にも有名な研究所で,これまで5名のノーベル賞受賞者を輩出している研究機関です。
また,1994年にはアメリカのレーザ協会会長のマツンダー先生とマリヤ先生をお招きして講演会も行ないました。一方で,私が招待を受けて得てきた海外の情報は特別講演を通じて,可能な限り研究会の会員の皆さんに提供してきています。
─国内機関との連携はいかがでしょうか?
坪井:私が幹事長を務めていた時代に遡りますと,レーザ加工学会との合同シンポジウムを行なったことがありました。自動車のアプリケーションに限定したもので,愛知県内で数回開催したレーザー加工シンポジウムです。私は現在,JAEA敦賀にあるレーザー研究所も兼任していますが,2014 年11月にはそのJAEA敦賀にあるレ ーザー研究所の見学会も行ないました。ここでは原子力発電所の廃止措置に関わるレーザーの応用研究を行なっていますので交流を続けています。
沓名:講演会を通じた交流というのは多いです。例えば,他にも日本溶接協会のLMP(レーザ加工技術)委員会やレーザー学会などと共催した講演会もあります。
今後のレーザー加工応用の方向性と中部レーザ応用技術研究会の役割をどのように考えておられ
ますでしょうか?
武田:方向性の一つにe-モビリティがあると思います。自動車の電動化だけでなく,空飛ぶ車もそうでしょうし,それらに関わるレーザー技術はすごく大事になってくると思います。ただ,日本ではそれらに関する応用が出にくいので,研究会を通じて海外の事例を紹介していくと,すごくヒントになって応用に弾みがつく気がしています。
例えば,ドイツで開催されるEALA(European Automotive Laser Applications)という海外でよく知られている欧州の自動車分野における最新のレーザー応用を発表する会議があります。この会議には北米やアジアの自動車メーカーやサプライヤーなどの関係者も参加され,会社の垣根を越えて自動車応用に関する活発な議論が交わされます。情報はオープンで,非常に熱心にレーザー加工について話し合われています。この仕組みはなかなか日本では難しいものがありますが,似たような活動ができるのではないかと思っています。
現在,熱加工用に限らず,従来レーザーではできなか ったことが,レーザー発振器の固体化・近代化により使い勝手や性能向上,低コスト化が進みすごく簡単にできるようになってきています。にもかかわらず,なかなか応用が進まないというのは,その一つに実際にレーザーを学んでいる人や長期に亘り,レーザー技術開発されている方が減っているのかなと思うところがあります。そういう意味では,この研究会で行なっている基礎講座というのも新しくレーザーに携わる方に非常に役立つと思います。この活動を地道に続けていき,レーザー適用のハードルを下げて,使いやすいものだということを広めていくことがすごく大事なことだと感じています。
沓名:私は昔,アメリカ海軍が関係するレーザーの海洋技術への応用という国際会議に参加したことがあります。この会議では軍艦製造に関わる溶接,切断,計測技術,またミサイルを打ち落とす技術などが発表されていました。アメリカ政府が軍事予算でもって開発を進めているので,成果は公表する必要があります。ここでの情報というのを中部レーザ応用技術研究会の会員の皆さんに紹介しました。その一つがレーザーピーニングで,戦闘機のブレードに適用されているレーザー加工技術の事例です。
レーザー応用の方向性という点で注目すべきは,CFRPのレーザー加工です。CO2パルスレーザーによる切断技術が確立されてきましたし,装置の価格も下がりつつあり,そろそろ使えるものになるのではないかと思います。このCFRP加工の分野は日本が強いので期待されています。CFRPを自動車ボディに採用した場合,アルミのボディよりも軽量化につながります。
─先ほど,坪井先生のお話にありました原子力発電所の廃止措置技術におけるレーザー応用の
可能性についてお聞かせください。
坪井:廃止措置技術の開発というのは,原子力発電所を所有しているどこの国でも行なっているわけですが,特に日本は2011年に福島原発事故が起きているので切迫した問題になっています。廃止措置技術の研究開発はクローズな世界となっており,あまり外部から見えないかもしれませんが,レーザー応用という点ではそれなりのポジションが期待できると思います。要するに,現場に人が近づけないわけですから,遠隔で処理できる技術には非常に有望になるわけです。
私が兼任させていただいているJAEA敦賀にあるレーザー研究所も,廃止措置技術に関しては,原子炉を解体するためのレーザー切断と,除染に向けたレーザークリ ーニングという,まずこの二つの可能性が想定されて取り組まれています。
原子力発電施設の寿命を60年に延ばすという話もありますけど,そのためには保守,メンテナンスの技術向上が非常に重要となります。いずれもロボットに搭載し,遠隔操作が可能な点において,レーザーが有望な技術として着目されています。特殊な応用ですので,決してマ ーケットが大きいとは言えないですけどね。
─その他にも期待されるレーザー応用技術というのはありますか?
武田:レーザー加工は色々とありますが,やはり自動車の電動化に関連して,レーザーの集光特性を活かした溶接や切断だけでなく,レーザーは他への応用が考えられています。例えば,弊社が行なっているものの一つに,バッテリーの電極スラリーのレーザー乾燥があります。
この乾燥工程は現在,ものすごく巨大なオーブンで乾かしていますが,これをレーザーを局所的に照射して短時間で一気に乾かすという試みです。レーザーで行なう利点としては,現状の100 mにもなる大型な乾燥炉を必要とせずに,小型な効率の良い乾燥システムでよくなることです。これにより,カーボンニュートラル実現にもつながります。レーザー乾燥は何も新しいものではなく,発想の転換で開発された技術です。
─おわりに,研究会の今後の展開についてお聞かせいただけますか?
沓名:研究会としては,そろそろ世代交代も考えなくていけないと思っていますし,新しい技術にも対応していくような若い人を育てていく必要があると思っています。人材育成に関しては前田幹事長を始め,皆さんと一緒に取り組んでいくつもりです。
坪井:世代交代に関しては私も感じているところですが,沓名先生が偉大すぎてしまって,余人に代えがたいということがあります(笑)。これは私の個人的な意見ですけれども,集団指導体制のような新しい仕組みで運営していくのも一つの手ではないかと思っています。
─若手の育成が重要ということですね。中部レーザ応用技術研究会のさらなる発展と,活動を
通じた日本のレーザー技術とマーケットの底上げに期待したいと思います。ありがとうござい
ました。◇
(月刊OPTRONICS 2023年01月号)