◆石川 将也(イシカワ マサヤ)
映像作家/グラフィックデザイナー/視覚表現研究者
1980年生まれ。
慶應義塾大学佐藤雅彦研究室を経て,2006年より2019年までクリエイティブグループ「ユーフラテス」に所属。
科学映像「NIMS 未来の科学者たちへ」シリーズやNHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」「2355/0655」の制作に携わる。
2020年独立。デザインスタジオcog設立。
研究を通じた新しい視覚表現手法の開発と,それを用いて情報を伝えるデザイン活動を行っている。
最新作「Layers of Light/光のレイヤー」が令和2年度メディア芸術クリエイター育成支援に採択された。
2019年より武蔵野美術大学空間演出デザイン学科 非常勤講師。
https://www.cog.ooo
色鮮やかな蛍光の図形が跳ねるように踊る。スクリーンに浮かぶ映像はミニマムかつ記号的で,どこか懐かしい気もする。角度を変えると光のレイヤーが互いに干渉しあい,不思議な立体感が立ち上がる。
クリエイターの石川将也氏は,偶然見出した蛍光の現象を新たな映像表現へと昇華し,展示を通じて公開した。そこには作品を超えた応用の可能性も見え隠れする。誌面ではモノクロでの紹介となるが,この作品の本質はカラーと動画で観ないと分からないだろう。インタビュー最後のリンクで,是非その世界を実際にご覧頂きたい。
石川さんの活動と今回の展示ついて教えてください
私はクリエイティブグループのユーフラテスに2019年末まで所属していて,今は独立して映像制作やグラフ ィックデザインを中心とする視覚を用いたコミュニケーション,そしてそれらの母体となる視覚表現の研究を行なっています。ユーフラテス在籍中はEテレの「ピタゴラスイッチ」,「2355」といった教育映像にクリエイターとして関わってきました。
私は2020年の6月に,ある機材とある材料についての興味から一つの発見をし,そこからこのような研究と作品制作に至りました。今回の展示は,その自主的な研究活動から生まれた立体映像装置と,その上での表現の可能性を模索した作品群「Layers of Light/光のレイヤー」を初めて,世に問うためのものです。この作品で使っているプロジェクターは,フォーカスフリーという特長があり,映像の研究やメディアアートなどでも使われているものです。例えば移動しながらプロジェクションをしてもずっとピントが合っているので面白い機材だと思っていました。
それと,私はユーフラテス在籍中ずっとNIMS((国研)物質・材料研究機構)の「未来の科学者たちへ」(https://www.nims.go.jp/publicity/digital/movie/mirai_scientists.html)
という映像シリーズも作ってきたのですが,そこでサイアロン蛍光体に関する映像の企画・制作をする機会があって,その時から蛍光材料にも興味を持っていました。
このふたつを組み合わせると,面白いことができるんじゃないかと思ったのがそもそものきっかけで,去年ち ょうどコロナで時間もあったため,実際にこの機材と材料を使って実験をしてみたところ,蛍光物質の入ったスクリーンでプロジェクターの光が二つに分かれることに気付きました。しかも,それまで見たことのない,まるで光を物質として扱うような,はっきりとした独特な分かれ方でした。
もともとユーフラテスは慶應義塾大学(環境情報学部)の佐藤雅彦研究室(現・東京藝術大学教授)から始まった,いきなり表現を作るのではなく,まず自分たちでその表現の母体となる手法を研究して作るという活動を行なっていた集団です。私もこれはどういうことなんだろう,何ができるんだろう,新しい表現につながるのではと思い,探究を始めました。
その中で,やはりこの現象は蛍光材料の,その物質が発光する波長よりも短い波長の光を吸収して励起・発光する物性によるものだと分かりました。この際反射も起きるため,スクリーンとして機能します。だとしたらプロジェクターは光源がRGBと3つの波長で構成されているので,映像も3つに分けられないかと考え,試してみたところうまくいきました。
スクリーンを1枚増やして2枚の蛍光スクリーンで3色(RGB)の光に分離しているのですが,この部分の詳細は特許出願の核心部分になるのでご容赦ください。
RGBを使う原理上,今のところ三層までしか像を出せませんし,各層に出せる色が決まっているというのもディスプレーとしてはすごく制約が大きいのですが,出せる像がすごく綺麗なので,これで映像としてどういう表現が可能なのか,研究を続けてきました。