陰陽師の名を継ぐ最先端の望遠鏡 ─東アジア最大の主鏡が捉える宇宙とは

─その5分の差で変わってくるかもしれないと
せいめい望遠鏡の面分光装置「KOOLS-IFU」による惑星状星雲NGC7662のスペクトル輝線像(作成・提供:大塚雅昭氏)
せいめい望遠鏡の面分光装置「KOOLS-IFU」による惑星状星雲NGC7662のスペクトル輝線像(作成・提供:大塚雅昭氏)

そうですね。超新星爆発やフレア以外にも,ガンマ線バーストや重力波といった現象もあります。重力波は2017年のノーベル物理学賞を取ったわけですが,重力波を検出した時に天体を観測するのは極めて難しく,成功したのはIRSFが活躍した中性子星合体の大爆発一例だけです。重力波の場合,見える現象はほとんどありませんが,いざという時,本当に望遠鏡を向けられる能力は重要かもしれません。

それから,変わった超新星が出すと言われるガンマ線バーストは,明らかに重要な現象だということがわかっています。10分くらいで明るさが半減してしまうので,それを数分の間に観測した例は殆どありません。ガンマ線バーストの研究こそ,本当に1分2分を争うと言われています。

─せいめい望遠鏡はこれで完成したのでしょうか?

望遠鏡としては90%くらい,というのは,たとえば今大接近している火星は20秒角以上の角度の視直径で見えていて,それを1秒角の分解能で見れば表面の模様もかなりわかります。それだけなら,今のせいめい望遠鏡で十分です。これはアクチュエーターで鏡をしっかりと調整することで実現しているものの,実は,先ほどの回折限界という意味でいうと,3.8mの実力をしっかりと発揮していることにはなりません。

なぜかというと,可視光の回折限界の1秒角を実現するには,たった10cmの望遠鏡でできるのです。我々の望遠鏡は,この限界は実現しており,1m近いセグメント鏡の歪みは50nmくらいに収まっていますが,それをしっかりと3.8m口径の回折限界にしようとすると,鏡の段差までもその精度に収めないといけません。

また,それくらいの精度になると鏡の支え方次第でいくらでも歪んでしまいます。鏡は3点で支えていて,そこにウォーピングハーネスという,鏡を一番低い次数で変形させる仕組みを入れており,それでちょっと力をかけてやれば,全体として20nmくらいまでの精度を出せます。全体として,しっかりと光の位相までも合わせることを目指します。

これは分割鏡の望遠鏡の中ではケック望遠鏡だけができていて,他の分割鏡のテキサスや南アフリカの大望遠鏡ではやっておらず,天文学では光バケツと言う,光を集める働きしかしていません。この,しっかりと回折限界を達成した3.8mの鏡にすることが残りの10%です。ただ,望遠鏡では光を集光するというのもポイントであり,その焦点部分にどんな観測装置を付けるかも重要です。今,せいめい望遠鏡には分光器しか付いていませんが,様々な機能を持ったカメラなどを付けていこうとしています。

─日本の天文学は厳しい状況にあると聞いています

岡山で失敗しながらやりますと言うと,けしからん,成果の出ることをやれと言う方もおられると思いますが,ここ100年や200年くらいの科学でもって,自分たちはこの世のことをみんなわかっていると思う人がいたら,それは本当に傲慢だと思うんです。我々はやっぱり成果が出るかどうかわからないことをどんどん研究しないといけないんじゃないでしょうか。選択と集中で世の中がうまくいくんだったら,そりゃやってくださいよと思うわけです(笑)。

だから,天文学がいま飢えている人を救えますか,と言われればとても「はい」とは言えないですけども,だけどひょっとすると天文学でやっていることが何かの役に立つ,あるいは,岡山の天文台で一生懸命失敗していった人が,そのうちオプトロニクスの分野で役に立つ,実学の面ですばらしい発明をするということだってあるんだと思うわけです。

本当に無駄なことはやってはいけなくても,しっかりと検証ができるような無駄なこと,大学院生や若い研究者がしっかり考えながら一歩一歩やれるようなことを,我々はやっていきたいと思っています。そう言うと,ぜひ日本の天文学にもうちょっとお金をください,ということになってしまいますけど(笑)。

─直近の計画・予定はありますでしょうか

経緯台式の望遠鏡で星を追尾していくと焦点面が回るのですが,これに合わせて観測機器を回すためのインストルメントローテーターという装置をやっと6月から使うようになって,その調整を先日から完了しつつあるので,10月から観測が始まります。そういう意味ではこれで90%完成となり,これまでは80%くらいだったかもしれません。

来年にはそのインストルメントローテータ ーにカメラが付く予定です。このカメラは可視光線を青と黄色と赤とに分けて撮れ,さらに一部は分光もできるようにするので,さらにいろんな観測ができるようになります。

2年後くらいには,光の位相をちゃんと合わせて,光学系としては3.8mの回折限界を達成したいと考えています。そうしておいて,大気の揺らぎを打ち消して,天体観測においても回折限界を完全に実現できるような惑星撮像装置「SEICA」(Second-generation Exoplanet Imager with Coronagraphic Ao)を付けようとしています。この装置を使って,明るい恒星を隠して,その周りを回っている惑星が見えるようにしたいと考えています。それができて100%だと思っています。

(月刊OPTRONICS 2020年12月号)

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