─鏡を作るのにどういった技術が使われたのでしょうか
鏡はナガセインテグレックスの超高精度の研削盤で作ったのですが,砥石の位置を極めて正確にコントロールすることで研削でも鏡が作れるというものです。TMTと同じオハラのゼロ膨張ガラスを使っていて,研磨では1mクラスだと1年近くかかるのが,ガリガリと削れば1~2週間でできてしまう。
新技術の干渉計も使い,実際には最終工程に研磨を併用したのですが,順調なら100nmよりも良い精度の1mクラスの扇形の鏡が,2週間で1枚作れるようになりました。
─トラス構造も採用しました
経緯台方式のすばる望遠鏡の,センターセクションと呼ばれる部分から鏡を支える構造は非常に重厚長大な感じですが,これからの望遠鏡としては進む方向が違うと栗田准教授は考えました。逆に軽くすれば,それだけ支えるのも簡単になるので,フレームにトラス構造を採用したのです。
栗田准教授は名古屋大学の大森博司先生に弟子入りをし,遺伝的アルゴリズムという,生物と同じように親のモデルをいくつか作り交配をさせて進化していく計算法を学び,そこの大学院生たちと非常に軽くてしっかりした構造を作りました。
─観測の成果や,これから見ようとしているものについて教えてください
今観測しようとしているのは突発天体というもので,テーマは超新星爆発,それから恒星のフレアです。超新星爆発は星が最後に大爆発をする現象で,非常に重要な天文学の課題のいくつかを解くキーになっています。そのひとつは元素の誕生です。太陽のような星の中では水素をヘリウムに変える反応でエネルギーを出していますが,将来的にもそのヘリウムが核融合して,それでおしまいです。
そうすると,酸素,窒素,炭素などはできても,例えば我々が生きていくのに大切な,亜鉛やヨウ素や,さらには金やプラチナなどはできません。そもそも周期表の92番目までの元素は超新星爆発等の大規模な爆発現象でできたものです。しかし,その誕生の詳細はよくわかっていませんでした。
それが,今は世界中で超新星爆発を研究する人々が増え,毎日,何十個と超新星は発見されています。それを我々の4 mクラスの望遠鏡で分光してやると,色々な元素の成り立ちや超新星爆発のメカニズムなど,これまでわからなかったことがわかります。
それから恒星フレアは,太陽と同じような星のコロナや黒点での爆発現象です。太陽の場合は100万分の1とか,せいぜい1万分の1くらい明るさが変化するだけですが,恒星の中には,場合によっては100分の1くらい明るくなるものもあります。こうしたフレアを分光して,飛んでいるガスの特定といった研究をします。
─突発天体とはやはり瞬間的な現象なのでしょうか?
超新星爆発の場合は1~2ヵ月は明るいので,これまでの観測データでもかなりのことがわかっています。それでも4 mクラスの望遠鏡で分光したデータはなかなかありません。どのように爆発して,どのような元素ができるかというのは最初の1週間,場合によっては1時間くらいが重要になりますし,フレアも数十分から1時間くらいで明るくなって,あとはだんだん暗くなっていきます。
ここでトラス構造の軽快さが活かされると思っています。東大の105 cmのシュミット望遠鏡にはトモエゴゼンという,フルサイズのCMOSセンサーを84枚並べて約1億9,000万画素を実現した観測システムが搭載されていて,空をずーっと睨んでいます。ここから超新星爆発が起こったというデータをもらえば,我々はすぐにそこへ向けて観測を開始できます。
せいめい望遠鏡が去年の2月28日にファーストライトで,トモエゴゼンもちゃんと動き出したのは今年なので,まだ連携した観測の成功例はありませんが,もしそういうことが起きれば,180度逆を向かないといけない場合でも1分以内に観測を開始できるはずです。例えば,すばる望遠鏡のような従来の大望遠鏡で同じことをしようとすると180度動くには数分以上かかるわけで,こんなことができるのも軽いからです。