─フォトニック結晶レーザーの研究についてお聞かせいただけますか?
フォトニック結晶レーザーは,前述の3次元や2.5 次元バンドギャップ結晶とは全く異なる考えに基づいたレ ーザーです。バンドギャップが全く関係ないわけではありませんが,バンドギャップを使うというよりは,バンドギャップ端をうまく使い,非常に大きい面積でもコヒ ーレントにレーザーが動作しうるもので,この考えを1999年に提案しました。
半導体レーザーは言うまでもなく,現在,フォトニクスの重要なポジションを占めています。ただ,これまでの半導体レーザーはパワーが出ない,出せたとしてもビ ーム品質が悪くなるという欠点がありました。ファイバーレーザーの励起用光源には半導体レーザーが使われていますが,半導体レーザー自身が主役となり,極めてコンパクトで,ビーム品質が良く,パワーが出るものを実現することは,これまでの常識では難しいとされていました。
一般的な半導体レーザーにおいては,横モードは屈折率差を用いて制御され,単一横モード動作を実現するためにはストライプ幅を,概ね5 ? m以下にする必要があります。出力はストライプの幅に比例するので,この幅を増やしていくと出力は高まりますが,横モードが乱れていきます。横モードが乱れるために,出射光の拡がり角度が広くなり,輝度が低下していくわけです。そのため,ビーム品質が悪く,集光しづらいという課題が半導体レーザーにはあります。
LiDAR用途(特にToF(タイムオブフライト))を想定した場合,数10 m以上先を検出する際,かなり高い出力がないと反射して返ってくる光を検知することができません。それを可能にするためには,強引にストライプの幅を広くして光を出力させる必要がありますが,ビ ームを整形させるため,複雑にレンズを組み合わせるなどし,一つ一つ調節する必要があります。しかし,狭い拡がり角度を得るためにレンズで補正するのは難しく,また全体のサイズも大きくなるので,やはり基本モードで動作可能なレーザーが望まれています。
我々のフォトニック結晶レーザーは,最近の成果で500?m~1mm径でも基本モードで動くようになっています。その結果,ビームは殆ど広がらず,また非常に対称性の良いビームを出射することが出来ます。将来は3mm径でも動くようになると思います。出力は現在,数10Wを超えています。これが100Wになり,キロワットになり,さらに連続動作でも動くようになれば,スマート製造にも使えるものになるでしょう。
我々が開発したフォトニック結晶レーザーは現在,MTA(Material Transfer Agreement)のもと,関心をもっていただいている企業に貸し出しを行なっています。このレーザーの仕様はパッケージサイズが5.6mm~9mm,デバイスの有効サイズが500?m径,発振波長が940nm,~nsのパルス幅で10W級の動作が可能です。ビーム品質が良く,実際30m離れても5cm程度しか拡がりませんので,レンズフリーで動作します。
現在,SIP(内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム『光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術』:研究開発課題『フォトニック結晶レーザーに係る研究開発』)とCREST(科学技術振興機構・戦略的総合研究推進事業『次世代フォトニクス』研究領域における研究課題『変調フォトニック結晶レーザーによる2次元ビーム走査技術の開発』)で開発を行なっており,実用化に向けては技術移転やデータの蓄積などを企業とともに進めているところです。