コロナウイルスへの工学的対抗策とは? ─感染症の予防につながる製品開発に向けて

─先生の研究室のWEBサイト『コロナウイルスへの工学的対抗策についての考察』には,
ウイルスの感染予防策や不活化の有用性などの内容が詳細にまとめられています

色々な方々にヒアリングを行ない,感染対策が物理的にどのような過程で効いてくるのかを調べていきました。ですから,最初は手洗いの有効性から始めました。コロナウイルスはエンベロープという脂の膜に覆われています。このエンベロープは脂溶性ですから,それを溶かすことで感染力を失わせることができます。石鹸やアルコール消毒液で手を洗浄,消毒するのが予防策として挙げられているのは,そのようなことがあるからです。

─改めまして紫外線の考え方を教えていただけますか?

紫外線には波長が長い方からUV-A,UV-B,UV-Cに大別されます。これらは太陽の光に含まれています。さらに波長が短くなると,真空紫外線になりますが,真空紫外は大気に吸収されるので,空気中を伝搬しません。そこまではいきませんが,UV-Cはオゾン層で吸収されるので,地球の地表までは届きません。これに対して, UV-A,UV-Bは地上まで届きます。このうち,地上に降り注いでいる95%程度がUV-Aです。外にものを干したりした時に細菌の滅菌やウイルスの不活化を担っているのがUV-Bです。

実は,UV-AとUV-Bの紫外線量は季節変動によって異なります。ある化粧品メーカーのHPには,季節や時間帯によって紫外線量がどのように変化するかを掲載されています。それによると,UV-Aは夏と冬とでは大差がありません。冬場でも紫外線量は多いので,冬場でも紫外線ケアをしっかりとしましょうという話になっています。

一方,UV-Bは夏場に比べて冬場は5分の1くらいまで減ります。天日干しをしようと思ったら冬場は丸一日くらい外に出していないとウイルスの不活化が難しいということになります。日差しの強い夏場は,陽が当たるところに干しておけば2時間くらいで数百分の1から千分の1くらいまで,細菌の滅菌とウイルスを不活化することができる計算になります。

結局のところ,紫外線の照射量によって,どの程度(細菌・ウイルスが)減るのかというデータが必要になります。UV-Cでは,殺菌灯を使って新型コロナウイルスと似たインフルエンザウイルスで計算したところ,5秒間の照射で1万分の1まで不活化できる結果になりました。現在,感染対策と称する紫外線に関連したグッズが色々と売られていて,99%,99.9%除菌とか記載されていますが,紫外線量に関しては一切出てきませんし,照射時間や照射距離の記載が全くありません。やはり,実際に利用する距離での照射強度を測るというのは,紫外線装置を開発するうえで重要です。

─やはりUV-Cが細菌・ウイルスの不活化に非常に有効ということになるのでしょうか

ただし,UV-Cは人体に有害ですので,取り扱いには十分な注意が必要です。人がいない間の使用や人感センサーと組み合わせたりすることも考えられますが,注目しているのは,ウシオ電機が開発された人体に無害とされる222 nmの『Care222』です。一般的なUV-C殺菌灯からの254 nmの紫外線よりも透過力が低く,角質層で止まり生きている細胞にまで到達しないため,安全に使うことが出来ます。

現状ではUVランプになると思いますが,広い範囲を照射するためには遠くに置かなければいけません。しかし,距離に比例して照射量が落ちていきますので,不活化の効果が弱くなります。現在,我々が開発を進めているのは,箱の中にUVランプを仕込み,至近距離から短時間で安全にマスクのウイルス不活化するボックスと,光触媒によってウイルス不活化を広範囲に処理する装置です。

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