─光検出器について教えてください
光検出器は世界最大直径50cmの光電子増倍管です。今回,スーパーカミオカンデの倍の性能のものを作るために,国内外で開発を進めています。光電子増倍管はタンクの内側と外側に設置されますが,内側に使う4万本のうち半分を日本が,残りの半分と外側の6,700本は海外が担当します。
内側の候補となるのは我々が浜松ホトニクスと開発したものです。この光電子増倍管はスーパーカミオカンデのものに比べて検出効率,一光子の検出性能,耐水圧性能が全て2倍になってます。以前,スーパーカミオカンデ内でガラスが連鎖的に割れるという事故があったので,より深い水深でも使えるように開発して安全性を増したステンレス製のケースに入れ,前面にはUV透過型のアクリルカバーを使用します。
─候補は他にもあるのでしょうか?
中国の実験用に開発したものをハイパーカミオカンデ向けに改良しています。基本的な性能である,光検出効率と耐水圧性能は我々のものと同等ですが,分解能に関しては同等と言えるほどではありません。ただコストの問題もあるので,どちらを使うかは未定です。他にも3インチ(=8cm)径の光電子増倍管を19本束ねたものを,イタリア,ポーランドなどの欧州とカナダのグループが開発しています。
ニュートリノが水中に入ると,チェレンコフ光はリング状に写ります。その形からニュートリノの情報を引き出すので,リングを細かく見られる方が良いという設計思想で,50cm径の受光面で取得できる光の量には届かないものの,カメラで言えば解像度が高いことになります。この複眼を持った光センサーも海外担当分の候補の一つです。
3種類のニュートリノのうち,水中で綺麗に捉えられるのは電子型とミューオン型の2種類で,大抵はひとつの粒子に対して1個のチェレンコフリングというものが見えます。光電子増倍管で検出する光の分布の違いから,残り2種類のチェレンコフリングを99%以上の確率で見分けることができます。
タウニュートリノはエネルギーが非常に高い場合に見えますが多数の粒子が出るのでリングの数もいっぱいになって良く分からなくなり,見えにくくなります。これらチェレンコフリングの検出精度は,光電子増倍管の性能で決まり,解像度が上がるとより詳細に観測できるようになります。
─光電子増倍管の開発について教えてください
光電子増倍管の径は50cmですが,最初に小柴さん(東京大学名誉教授小柴昌俊氏)は浜松ホトニクスの晝馬輝夫社長(当時,故人)に,カミオカンデ用に25インチ(=63.5cm)の光検出器を作って欲しいと頼んだのですが,ガラスを口で吹く方法でそんなに大きなものは作れなかったので,20インチ(=50cm)に落ち着いたという経緯があります。
スーパーカミオカンデ用の光電子増倍管はカミオカンデ用を改良し,検出効率で1.5倍ぐらい,時間分解能も半分になっています。今回はそれをさらに改良し,ひとつは中に半導体を入れて8000ボルトの電圧をかけ,高い分解能を得られるハイブリッド型の光検出器を,もうひとつは,ボックス・ライン型ダイノードの検出器を開発してきました。
スーパーカミオカンデの光電子増倍管にはブラインドのようにダイノードを並べ,その電場で電子を加速するベネシアン・ブラインド型ダイノードが使われています。これは大きくしやすいのですが性能はあまりよくありません。ハイブリッド型は非常に狭い面積に電子を集めるために高い電圧が必要です。さらに中のアバランシェダイオードで電子を増倍するのですが,この増倍率がだいたい1000倍ぐらい,さらにアンプで100倍ぐらいに増倍して検出します。しかし,高電圧を使うので量産性の見地から現在は開発を止めています。
ボックス・ライン型ダイノードは小口径の光電子増倍管では主流ですが,小口径なので入射位置による性能のばらつきなどあまり気にしてきませんでした。このボックスライン型は,KamLANDという東北大学の実験で17インチ(=約40cm)径の大きさの光電子増倍管で採用されていました。そこから上手く電場設計し,中の電極を上手く加工する技術が発展して,今回ようやく期待通りの性能を出せるようになりました。
他に中国製のものはMCP,マイクロチャンネルプレートを使っています。これは多数の穴が空いたガラスの両側に電圧をかけると,電子がぶつかって増えながら穴を降りていくものです。このMCPも構造的には大きくしやすいのですが,非常に高価なのである程度の面積に収集するような使い方をしています。50cm径となるとこうした候補に絞られますが,ここから実用性や生産性,性能など色々考えると,今のところはボックスライン型が有力な候補となっています。